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ラグナロク  作者: MIKON
過酷な現実
13/16

別れ

          ★


「総統、お呼びでしょうか」


「ああ、君を待っていた」


「何の用でございますか?」


「君は……また一人兵を殺したそうだね」


「!!」


「その顔は図星か……」


「そ、総統、わ、私には何のことだか……」


「まさか、ただのストレス解消のために貴重な兵士を一人殺すなど、他の国々に知られてしまったら……誰もお前を雇ってはくれなくなる……」


「!!」


「くくっ……だが、私はまだお前を雇ってもいい……」


「え?」


「但し……こいつを殺したらな……」


「! こ、こいつを殺せば……見逃してくれるんですね?」


「……但し、そいつは私たちが全力で探してもまだ見つからない……果たしてお前に見つけられるかな? くくくっ」


「!! し、失礼します……!」


「………あのような者を、放っておいていいのですか?」

「放っておくわけではないさ……ただ、人は追い込まれると稀に奇跡を起こすからな……それに賭けてみただけだ……ただ、見つけても見つからなくても、結果は同じだがな……」


          ☆


「さて……そろそろ戻ったほうがいいかもね」

 灰香さんがそう言うと、春ちゃんも「そうですね」と頷いた。

「確かにいつまでもここいたら危険ですね」

 私も皆の意見に賛成すると、ノリ君が「じゃあ、さっさと行こうよ」と言って扉を開けるといきなり銃声が響いた。

 いや響いたというよりは、ここを撃った……?

 私は慌てて尻餅をついているノリ君を退けて急いで扉を閉めて周りを確認すると、灰香さんが腹から血を出ているのを抑えているのに気づいた。

「は、灰香さん!!」

 私のその声に皆も反応して灰香さんの方向を向いて唖然となっていた。

 何故なら、誰の目にも、銃弾が腹に命中しているのは歴然だったから。

「くっ……!」

 灰香さんは今にも意識がなくなりそうな顔をしていた。

「灰香さん! くっ、どうすれば……?」

 とりあえずここからどうやって無事に出られるか……考えないと!

 もう時間も……!

 私が焦っていると灰香さんが私の肩に手を置いた。

「は、灰香さん……今はじっとしてないとだめですよ!」

「わ、私なら大丈夫……それに、助かる方法なら……あるわ」

「え?」

「私が囮になって、外に出れば、あなたたちは助かるわ」

 それは私たちが助かり、灰香さんが助からないという非情な選択肢だった。

「そ、そんな! 駄目です! 皆で一緒に助かる方法を考えればきっと……!」

 私がそう言っても、灰香さんは首を横にしか振らなかった。

「は、灰香さん………」

「だ、大丈夫よ……、このぐらい……くっ!」

 灰香さんは苦しそうな顔をして腹を強く抑えた。

「全然大丈夫じゃあなさそうですよ!」

「………そうね、やっぱりこのままだと危険よね」

「! じゃ、じゃあ……!」

「ええ………ごめんね」

 灰香さんが後ろに下がった時、私は首に強い何かを受けて、倒れこんでしまった。

「……ごめんね、ボロちゃん、このままだと行けそうになかったから……」

「行くんですか?」

「ええ……そうしないとあなたたちを助けられないもの」

 段々薄れていく意識の中で春ちゃんと灰香さんの声が聞こえる。

「私の命と、あなたたち三人の命を比べたら、当然、三人の命のほうがいいでしょ?」

「……命に比べる基準なんてありません!」

「……確かにそうだけど、それは時と場合によるでしょ? この場合、全員死ぬか、一人が死んで三人が生き残るなら、当然、後者を取ったほうがいいでしょ?」

「……何で、ボロちゃんがあなたを行かせたくなかったのか分かりますか?」

「それは、まだあの子が幼いってことでしょ? 全員助かるなんて希望論…」

「それは違います!」

 あっ……春ちゃんが泣いてる……。

「え?」

「前に……話しました」

「……あっ………ごめんなさい、そう、だったわね」

「はい……だからもう自分たちの為に人が死ぬなんて嫌なんです……」

「…………ごめんね、春ちゃん」

「………やっぱり、行くんですね」

「ええ……気持ちは分かるけど、これしか方法はないの……」

「……じゃあ、私たちはこれからどうすればいいんですか!?」

「………それは、あなた達自身が考えることだわ」

「そ、そんなの、勝手過ぎます!」

「ふふっ、そうね……でも、私が知っていることは……あの地下まで逃げれば誰にも見つからないということと、食料も大量にあるから大丈夫なことだけど、私がいなくてもあなたがいるから大丈夫よ……」

「ま、待ってください! どうして私たちを助けたんですか!? 私たちを助ける前に一人だけであの地下に逃げればこんなことにはならなかったのに!」

「鋭いわね………まあ、本当のことを言えばそうしたかったけど、何で自分が生き残ったのかを考えてたのよ……」

「か、考えていた?」

「ええ……それで私がここまで生き残ったのは、自分だけが生き残るためじゃあない、ここでまたあのような事にならない為に天が私を生かしてくれた……そう思ったのよ」

「それで……丁度その時にここに来たのが私達……ということですか」

「ええ……あなた達を兵士として洗脳されないように……死なないようにするためにね」

「うっ! ううっ!」

「泣かないでよ、貴方が挫けたら誰がこの二人を引っ張っていくの? だから、強くなって……」

「は、はい……!」

「……じゃあね……×××ちゃん」

 最後の言葉は意識が眩んで聞こえなかったけど……私の名前を呼んだのだろうか?

 でも……何か懐かしいような……ああ、もう無理……い、意識が……。

 行かないで……は、灰香……さん……。




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