真実
そして、水中に謎の洞窟があることに気付いて、その穴の中に入っていくと、一つのバルブの扉があった。
ちょっと息が苦しくなってきた……。
女の人はバルブを回して扉を開けると、その扉の中に入っていった。
私達もそれに続いて中に入ると、その女の人はバルブの扉を閉めて、すぐ横にある赤い色のボタンを押した。
そうすると、みるみる水が流れていき、私達は呼吸が出来るようになった。
「ぷっは!! はあ……はあ……あ、危なかった~」
ちょっと、頭痛がしてきたから、ヤバかったな~。
そう私が安堵していると、女の人も安堵したようで、少しため息をついた。
それにしても……一体この女の人は何者なんだろう……。
いきなり助けてくれるって言ったけど……。
私は少し疑問に思いながら女の人を見ると、女の人は「何?」と少し笑みを浮かべて聞いてきた。
え、えっと……あっそういえば、この人の名前、聞いてなかった。
「あ、あの……お名前は何て言うんですか?」
そう私が聞くと、女の人は少しあっとして「ご、ごめんね! ちょっと忘れてた!」と謝った。
「べ、別に、聞かなかった私も悪いですけど……」
「ふふっ、健気ね」
「そ、そんなことは……」
「ううん、健気よ……さて、自己紹介ね、私の名前は桜木仄香、桜の木でさくらぎで、灰の香りでほのかって呼ぶの」
「ほ、仄香さんって言うんですか」
何か、変わった名前。
まあ、私が言えることじゃあないけど。
「そう……じゃあ、自己紹介も終わったことだし、そろそろ行きましょうか」
そう言って灰香さんはもう一方の扉を開けた。
「あ、あの!」
「何?」
「行くってさっきから言ってますけど、一体、ここはどんな場所なんですか? 安全っていってますけど……」
少し疑い深く聞くと、灰香さんは「実は着いてから話そうと思ったけど……そうよね、いきなり安全な場所に行くから着いてきてって言われても、信用できないよね」と少し反省した顔をして言った。
「い、いえ! そ、そんな信用してないとは言ってませんけど……」
「でも、疑ってたのは本当でしょ?」
「うっ……」
「だから、今、ここで話すわ……ここが何なのか……」
そして灰香さんは少し深呼吸をして、口を開いた。
「その前に……真実を話すわ……」
「えっ? し、真実?」
「ええ……信じられないと思うけど………実はね、隕石落下なんて嘘なの」
「「「えっ!?」」」
私も含めた全員はその言葉に驚愕した。
そ、そんな……隕石落下がう、嘘……?
じゃ、じゃあ、一体どうして……こんな世界に?
「やっぱり、動揺するよね……自分の人生を変えたあの隕石の落下が嘘だったなんて……」
「い、一体どういうことですか!?」
春ちゃんが少し灰香さんに詰め寄って言った。
そりゃそうだよね、だって、このせいで春ちゃんは両親を無くしたんだから……。
「考えてみてよ……どうして、火星サイズの隕石がぶつかって日本だけ資源枯渇や沈没とかににならなかったと思う? 日本は輸入に頼っている食品が大半なのに……」
「た、確かにそうですけど…………っ!」
春ちゃんは少し手で口を閉ざして、灰香さんを見つめた。
「その顔は分かったって表情ね」
「そ、それじゃあ……!」
「ええ……その通りよ」
「そ、そんな……!」
春ちゃんは姿勢を崩して座り込んだ。
一体、どういうこと?
春ちゃんは分かったみたいだけど……。
私が困惑した顔をしていると、灰香さんはそれを見て答えを教えてくれた。
「つまりね、隕石落下は日本が仕組んだことってことよ」
灰香さんはさらっととんでもないことを口にした。
「え、ええ!? し、仕組んだ?」
「ええ………まあ、これを見てもらえば分かると思うわ」
そう言って灰香さんはフード服のポケットから何やら設計図らしき紙を取り出した。
「万が一の時に、日本が仕組んだことが世間に知れ渡るように持ち出してきたの」
灰香さんは丸めてある設計図を開いた。
そこには、隕石を落下させる装置の設計図が書かれていた。
内容は強力な引力を発生させて、地球上のスペースデブリ(いわゆる宇宙ゴミ)を一気にそこに落とすというものだった。
そして、設計図の裏側には久遠薜と書かれていた。
「く、くどう……?」
「久遠薜 こんな世界を作り出した張本人よ」
「ということは黒幕ってことですか?」
「まあ、そんな感じね」
灰香さんが頷くと、春ちゃんが「そんな設計図、どこから持ち出したんですか?」と疑い深く聞いてきた。
やっぱり、灰香さんを疑っているのだろうか。
だが、灰香さんは春ちゃんの質問に口を閉じてしまった。
「どうして黙るんですか? やっぱり嘘なんですか?」
「ち、違うわ!」
「だったら何で黙るんですか!?」
は、春ちゃん………。
「……分かったわ……この設計図を持ち出した場所は……さっきあなた達が入ろうとした施設の中よ」
「「えっ?」」
私と春ちゃんは揃って驚いた。
私たちが入ろうとして施設の中?
えっ?
い、一体、どういうこと?
何か、訳が分からなくなってきた……。
そう私が混乱していると、灰香さんはそれを見て「ちょっと順序が早すぎたわね……最初から説明するわ」と先に進んだ。
私たちも半信半疑のまま灰香さんの元へ着いて行った。
「今から、何年前かな……私もね、施設に行こうってことになって、何とか、海を渡ってこの日本に来たの……そして、何とか施設に入れたわ」
灰香さんは懐かしい思い出を話すように言い出した。
だが、少し灰香さんは顔に影を落とした。
「でも私が16になった頃、とある部屋に来てくれって招集が掛かったの」
「とある部屋?」
「詳しくは聞かされなかったけど、その施設の地下にあるらしくて、一人ずつ部屋に行くことになったわ……でも、最初の一人目は2時間も経っても帰ってこなかったわ……それで心配になった私はこっそり自分の部屋から出て、その部屋を探したの……そしたら、変なものを被らされているのを発見したわ」
「えっ!?」
「それで混乱した私は勢い余って近くにあった階段から転げ落ちたわ」
「そ、それで……?」
「……そして、目の前にあった扉を開けると、少し広い空間に何か大量に物が置いてあったわ……そこで見つけてしまったの、私は」
「何をですか?」
まさか、幽霊なんてことはないよね。
「日本が何故、子供だけ受け付けると言った真意が」
「えっ?」
「……さっき言ったあの部屋は精神的にまだ未熟だけど身体としては良い16の子供を洗脳する部屋だったのよ」
「せ、洗脳!?」
せ、洗脳って……な、何でそんなことを……。
「ええ……理由はこれよ」
灰香さんはまたポケットから今度は折りたたんである紙を春ちゃんに渡した。
「これは?」
「開けてみれば分かるわ」
春ちゃんは紙を開けると、そこにはとんでもないことが書かれていた。
子供を洗脳し、各国の紛争地域に派遣し、儲けるというふざけた内容だった。
そしてまた後ろにも久遠薜と書かれていた。
「そ、そのために隕石を落下させて紛争を?」
春ちゃんは声を震わせながら言った。
「ええ………私の憶測だけど、その可能性が非常に高いわ」
確かに、灰香さんの言うとおりだけど、こんなことに何の意味が?
大勢の人々を巻き込んで一体何の意味が!
私が怒りで手を震わせていると、灰香さんは私を見て一瞬「えっ?」と驚いた。
「ど、どうしたんですか? 灰香さん」
「う、ううん! 何でもないわ……」
灰香さんはそう言って歩を進めた。
……さっきの灰香さん、何か変だったな……でも、気のせいだって言ってたし、気にしても仕方ないよね。
そう無理やり自分を納得させて、私も春ちゃんと一緒に歩を進めた。
そして長いトンネルのような通路を歩いていると、木製のドアを見つけた。