椎茸
伸びてゆく。前へ、後ろへ、上へ、下へ。
どれ程経つだろうか。
私の身体は、固く束縛されているのか。或いはその痛みを、腕が、脚が、引き千切れて、胸が張り裂けるその痛みを、どうにか再び呼び起こさぬよう、自ら縋っているのか。
伸びてゆく。確かにそう感ずるのみで、前も見えぬままに。
私は、それが嫌いであった。あの白と黒とで塗り潰され、さながら目玉のように私を見つめるあの姿。そして、近付く者の平常心を食い尽くし、狂気に誘うような、あの臭気。全てが醜い、汚い、そして恐ろしい。私は思った。こんなものに、決して触れることなどありはしないだろう、と。
であるのに。
降る。私の頭上を、白と黒とで埋め尽くし、無数に舞う。鼻を刺すような香を轟かせながら、空の隙間を埋めるようにして、満ちる。
椎茸の雨が、降っている。私を覆うように、落ちてくる。そしてやがて、湿り気を帯びたそれは、ぬちと地に一面に貼り付き、幾多にも重なりゆく。無数に降るそれは、私の腕を、背中を、足首を、覆う。
痒い。
私は、顔という顔中に貼り付いたそれを剥がそうと、掻き毟る。だが、既に多くの椎茸に吸い付かれた両手は、互いの手を擦り合わせども、ただぬるぬると滑るのみであった。
痒い、痒い。
異常な痒みにもう長くは耐えられまいと、どうにかしてむしり取ろうとする。ぬちゃぬちゃと、粘液を掻き混ぜるようにして、顔中に貼りついたそれを、削り取ってゆく。だが、ばりばりと、それとそれとで剥がそうすると、強く吸い付いたそれと共に、顔の皮膚をも落ちてゆく。
赤く充血し、剥き出しとなった顔面の肉が、ふるふると震える。地面には、微塵切りにしたような椎茸と、剥がれ落ちた皮膚とが、散らばっている。
私を取り囲む椎茸の臭気が、ぷつぷつと、顔の肉に当たり、浸ってゆく。
みちと肉が裂け、小さな芽が生える。また一つ、そしてまた一つと、芽が顔を出し、伸びる。
私の身体が、腐ってゆく。
無数の芽を出し、感染するそれは、私に息を吐くことすら出来なくさせる。
伸びてゆく。私の知らぬ間に、私の身体を歪め、再構築するようにして。
私は、無茶をしたのだ。
いつしか、それ無しには生きてゆけぬようになってしまったのだと。そう気付いた時には、もはや全てが遅過ぎた。
データが消えたりして、投稿までに手間取ってしまいましたが、皆さんの温かな励ましにより、無事投稿することが出来てしまいました。