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02

「これが近代戦争だよ」いつの間にかリチャード翁が来ていた。「武器が殺傷兵器でなく情報であるため、攻撃を受けているという認識がひとびとに希薄なのだ。情報端末の異常な普及は希薄な連帯感への依存を生み出す一方、コミュニケーション能力や想像力の低下を促進する。更に進めばスクリーンに表示された情報を無条件に信じ込んでしまう思考停止人間の出来上がり。人類はシステムのなかのデータに成り下がる。それを行列に並んでまで欲しがり、あまつさえカネさえ払おうというのだから正気の沙汰とは思えない」

「誰がその戦争を仕掛けているんですか?」

 いつになく辛辣なリチャード翁に僕は訊ねた。

「斥力の影響を強く受けている一握りの人類だ。飢餓で、戦争で、と未だ多くのひとびとが死んでいくなか、分け与える気持ちを露ほども持たないヤツらの醜悪さは目に余るものがある」

「なるほど……」

「君も当初の目的は果たせたはずだ。今後、飛ばし屋の諸君にはわたしの指揮下にはいってもらいたい。勿論、いままでとおり君の判断で弾き飛ばしたいのが見つかれば、それも続けてもらって構わない」

 橋田を弾き飛ばした僕が次に望むものは善意に満ちた世界で暮らす幸の姿だ。まがりなりにも幸の敵討ちができたのはリチャード翁のお蔭で、その恩に報いるのは吝かではないが……。

「具体的にはどんな連中が相手になるのでしょう」

「主には政治家、官僚、ビッグ・ファーマや保険会社など多国籍企業の経営陣とそこに投資しているグローバル資本家たちといったところだ。彼らはワールドガバメント構想を推し進めようとしている。こんなものが新世界秩序への道程であるはずはないのだがな」

「僕は外国語がさっぱりなんですが……」

「案ずるには及ばない。それにアジア圏だけでも弾き飛ばすべき輩は山ほどいる。なにせ三次元宇宙の膨張は加速しているのだからな」

「えっ?」

 何名の飛ばし屋が存在するのか知らされてないが、僕だけで十数名の欲望に囚われたひとびとを弾き飛ばしている。〝加速〟はおかしいのではないか。

「間違いないんですか?」

「減速パラメータの値はコンマ5を下回っている。わたしの考えが甘かったようだ。本来、社会というものは自浄作用をそなえているはずなのだが、それが完全に失われてしまっている。三次元宇宙に広く浸透した斥力が、浄化の意志を奪っているのかもしれんな。これを見たまえ」

 エクセルで描かれたような円グラフは、その四分の三が青く塗られていた。減速パラメータがなんなのかはわからないが――「青いのが斥力ってことですか?」

「そうだ。だが、明確な意志を以って悪意の遂行に当たるのはこのうちの2~3パーセントに過ぎない。残りは享楽に耽溺する意図的な無関心、つまり、個々がデータ化されようと自我が喪失しようと、いまが楽しければ構わないと考える五十億の人類だ」

「ご、ごじゅうおくって……」

 その2パーセントでも一億人、飛ばし屋が百人いたとして百万回の弾き飛ばしに挑まねばならない。気が遠くなりそうな数字だ。だが、この後のリチャード翁の発言は僕をもっと愕然とさせた。

「君たちは七名が力を発揮してくれれば大丈夫だ」

「なっ、ななめい?」

 聞き間違いかと思った。だが、リチャード翁はしれっとした顔で続ける。

「いつの時代も悪に立ち向かうのは七名と相場が決まっている。荒野の七人然り、七人の侍然り、だ。君の国にはワイルドセブンとかいうのもあったじゃないか」

 なんだ、その安直な発想は――。しかも荒野の七人は七人の侍のオマージュだから併せて一作とみなすべきだ。

「バルクも人材難なのよ」

 慰めるように言うコウの口調は、僕に実体があれば肩でもポンと叩きそうな気安さだった。


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