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「おめでとう。これで君もいっぱしの……、なんとかいったな」
バルクに戻った僕は、Jから微妙な労いを受ける。
「飛ばし屋のことですか?」
「そうそう、それだ!」
でも〝いっぱし〟とはどういう意味だろう。リスト四十枚、誰ひとりとして飛ばし損ねはない。鳥の巣頭だって本物が見つかっていればキッチリと弾き飛ばしをやってのける自信がある。
「半人前扱いは不満かな」僕の思考からJが不平を拾い上げて言った。「斥力側の末端である雑魚が相手でさえ僕やコウの協力を必要とした君だ。この先リスト上位の顔ぶれを迎え撃つに当たって任務を全うできると断言できるのか? 悪いが僕にはそう思えない。だからこそ、ああして君を追い込んでみた。言っておくがアフリカに派遣された三名は、全員が誰に教わるでもなくなんらかの付加的スキルを会得している」
「付加的スキル?」
なんのことだろう?
「君が身につけた瞬間移動のようなものだ。ある者は実体化段階で標的を完全に模倣することができる。言語に問題は残るが喋らなければ済む話だ。また、水素分子を多く取り込んで実体化することにより、分子サイズの隙間さえあればどこでも侵入可能な者もいる。実体化した後に、だ。そしてそのままの状態で電荷を反転する、ターゲットは水溜りでも踏んだつもりが弾き飛ばされることになる」
まるでターミナネーターのT―1000だ。僕の能力が逃げ回るのを目的としたものなら、それらこそ弾き飛ばしに特化したものだと言える。
横っ面を張られたような気がしていた。Jは彼なりの流儀で僕を新しいフェーズに導き、天狗になりかけていた鼻をへし折ってくれたのだった。
「観念の奔流を優れた知識は識別する。性急にスキルを求めるなら、それは決まりきったパターンでしかあらわれないことをディックは知っていたんだよ。君が不確実さのなかに止まることで……。ええと、なんて言ったかな?」
「飛ばし屋ですか?」
「そう、それだ! 他の飛ばし屋が持たないスキルを身につけてくれることを期待したんだ。ともあれ、僕の役目は終わった。縁があればまたいつかどこかで逢えるだろう。元気でな」
「これからあなたはどうされるんです? ディックさんに頼んで飛ばし屋をあてがってもらおうとかおっしゃってましたが……」
「ははは、あれは冗談だよ。僕はこう見えて平和主義者でね。上へ戻ってのんびり暮らすつもりさ」
Jは説得力のある人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
「そうでしたか……。とにかくお世話になりました」
「Take care!」
いままでJを象っていたものが光のシャワーとなって霧散していく。最後まで『飛ばし屋』という呼称を憶えてはくれなかったが、僕は最後の一粒が消え去るまでそれを見守った。