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 ――デブに入り込んで処刑を止めさせる。君はなんとかして逃げろ。

 なんとかしてったって、この状況で……。

 とっちゃん坊やがゆるゆると腕を振り上げる。兵士たちの指がトリガーに添えられた。

「기다려 정액 쏘지!」

 まるでコマ送りの映像を見るようだった。とっちゃん坊やの腕が振り下ろされる。逃げなければ蜂の巣にされるだけだ。だけどどうやって? 僕に向け放たれた銃弾は百や二百ではない。射撃訓練も行き届いているようで死にもの狂いでダッシュを試みる範囲にも弾幕はカバーされていた。

 死ぬのか? こんなところで――。冗談じゃない! この世界の父さんや母さんはどうなるんだ。ここは幸が列車に乗らなかった宇宙かもしれない。彼女を戦争や放射能汚染から救ってあげたいとは思わないのか! 逃げるんだ。どこへ? 銃弾の届かない場所へ、だ!

 その時、僕は自らの肉体がするりとほどけていく感覚に陥った。

 次に僕の意識がとらえたのは妙な具合に刈り上げられたとっちゃん坊やの後頭部だった。

 あれ? 死んでない……。

 左先方に視線を移すと、かつては朴だったものがボロ布のようになって横たわっている。

「凄いな、瞬間移動みたいじゃないか」

 振り返って言う後頭部の意識はJのものだった。

「もうダメかと思いましたよ。処刑中止を命じてくれるんじゃなかったんですか」

「기다려 정액 쏘지!――処刑中止って叫んだだろう? このデブが腕を下ろしたのは、僕が意識に飛び込んだせいだ。きっと反射運動みたいなものだろうな」

 檀上の幹部たちは、突如、とっちゃん坊やの背後にあらわれた僕を幽霊でも見るような顔で見ている。未知の言語を話す第一書記にも戸惑っていた。

 視界の端では僕のいた場所を銀縁眼鏡が探っている。ボロ布の質量がふたり分としては少なすぎるように思えたらしい。セミオートで掃射された朴の外套からこぼれた金属冠を手に取り、不思議そうに眺めている。

「僕を羽交い絞めにしてくれ」

 僕はJの言うとおりにする。

「こうですか?」

 巨漢のため、脇を通したのでは指先も届かない。僕は裸締めの要領でとっちゃん坊やの首に腕を巻きつける。そうさせておいてJは幹部連中に向け叫んだ。

「본지 지금을. 이 녀석은 스파이 아니야. 악마이다. 잡아라!」

 ――君を悪魔だと言ってやった。

 檀上の男たちは五十年配、若しくはそれ以上の高齢者だった。迷信深いようでなかなか僕に近づこうとはしない。腰の拳銃を抜いて遠巻きに眺めていた。

「총을 겨누는 말아라! 나에게 맞는 것이지만. 이 녀석은 비무장이다. 맨손라고 잡아라」

 再びJが叫ぶと拳銃はホルスターに収められ、檀上に向いていた兵士たちの銃口も下げられた。

「あの眼鏡も弾き飛ばしてやらないと」

 演歌歌手をそのままにしていた後悔はこれで帳消しにしよう。僕も意外に執念深い。

 ――いい考えだ。Jは銀縁眼鏡に向かって言った。「끼리, 법사. 너도 도와 라!」

 狭まりつつある包囲網に銀縁眼鏡が加わる。ひとり、ふたりと僕の身体に幹部連中の手が取りついてくる。十二本の腕が重なった時、Jが言った。

「That's all finish!」

 それ合図に僕は体分子の電荷を反転させた。


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