人形姫の魔法
昔々ある国に魔法の使える王女様がいました。
とても可愛らしい王女様でしたが、性格がとても悪く、国民からも城の人々からもすごく嫌われていました。
反乱する者もいましたが、王女の魔法であっさりと殺されしまったため、人々は恐怖に陥り、皆王女様の言いなりになってしまいました。
こんな事になってしまったせいで土地がやせ、草花で埋め尽くされた美しい国は、植物が生えない枯れた国になってしまいました。
この様子を見ていた神様はこのままではダメだと思い、王女様を30センチくらいの人形にしてしまいました。
人形になってしまったせいか、王女様は魔法が使えなくなり、人々の敵では無くなりました。
人々は今までの罰として人形になった王女様を鳥籠に入れて城の地下室に封印してしまいました。
すぐに代わりの王女様が決まり、国をまとめてくれたのでまた美しい国へとだんだん戻っていきました。
次の王女に変わってから10年ほどたった頃、隣国からアーロンという少年がこの国にやってきました。火事で親をなくしてしまったアーロンは、この国で生きていくために一番お金が手に入る城の仕事に付きました。
アーロンは毎回夜の警備をしていました。
上の階から下の階へ懐中電灯で道をてらしながら一つ一つの部屋を見ていきます。
一番下にある地下室を見て仕事は終了です。
今日もいつも通り部屋を見ていき、地下室を見ました。何にも変わりが無いのを確認したアーロンは地下室の扉を閉めました。すると中から奇妙な音がしたのです。
「キィーキィー」
誰かいるっ!そう思ったアーロンは勢いよく扉を開けました。
「誰だっ!」
誰もいません……。けれど奇妙な音はひっきりなしに続いているのです。不思議に思ったアーロンは耳を澄まして音の鳴る方へ歩いて行きました。すると鳥籠に入った人形を見つけました。しかもその人形は動いていたのです。アーロンの姿を見た人形は動きを止めて言いました。
「あら、こんな所に人が来るなんて珍しいわね。あなたは何をしに来たのです?新たな罰でも与えようというのかしら。もう私は10年以上もこんな所に閉じ込まれてきたのよ?もう疲れたわ……帰ってちょうだい。」
「僕は君の事を知らないよ。なぜ罰を与えなくてはならないんだ?」
「あら、私の事知らないって事は最近この国に来たのかしら?知らないのなら、なぜ私を恐れないの?」
「なぜ君を恐れなくてはならないんだい?」
「だって人形が動くなんて普通の事ではないもの。」
「なぜ普通で無いと言い切れるんだい?」
「……とても変わった人ね、まぁいいわ、早くどっかへお行きなさい。私と関わったら死ぬかもしれないわ。」
いきなりアーロンが鳥籠の扉を開けました。
「ちょっ…。あなた人の話を聞いているのかし……。」
アーロンは人形が言葉を言い終わる前にすっと抱き上げると言いました。
「君は一生鳥籠の中にいたいのかい?物好きですね。」
「物好きって…私はあなたのためを思って言っているのよ。」
「俺は他人の事を言えと言ったのではなく、君の事を言ってくれと言ったつもりだが。」
「私の…こと……?」
「そうさ、君自身出たいのか出たくないのか。」
「そりゃ出たいわ…けれど他人を犠牲にしてまで出たくないわ。」
「君はとてもやさしい心を持っているんだね、心配は無用だよ、僕はそこまでやわじゃない。」
アーロンはそっと人形を鞄にしまい家に帰って行きました。
家に着いてからたくさんの話をしました。いままでの人生で楽しかった事、辛かったこと、色々話しましたが、人形のローズは昔の自分の立場・過ちを話す事ができませんでした。
アーロンには幻滅してほしくなかったからです。アーロンは特別聞きだす素振りも見せず、ローズの一つ一つの話に丁寧に耳を傾けてあげました。
それから何日も経ちましたが、人形のローズが逃げ出した事は誰にもばれる事はありませんでした。
夜の警備が幸いアーロンから変わっていなかったからかもしれません。
だんだん二人には深い絆が生まれていき、日々楽しく過ごしました。
しかし国はだんだん荒れていきました。
今の女王がわがままになってきてしまったのです。自分のために貧しい人々から金を巻き上げ、たくさんの重労働をさせ、気に入らない事があると簡単に人を殺しました。
草花は枯れ、また同じ歴史を繰り返そうとしていました。
このままでは国が滅びてしまうと思ったアーロンはこう言いました。」
「ローズ、これから僕は城へ抗議しに行ってくるよ、今の王女ではダメなんだ。」
「だめよ…殺されてしまうわ。」
「そうかもしれない、だけど誰かがやらないとだめなんだ。」
アーロンは悲しげに言うと馬にまたがりました。
するとローズがすぅっと息を吸って大きな声で言いました。
「私がいくわっ!アーロンは下がりなさい!」
「君は人形だろ?戦う力が無いし、不審に思われて説得の前に殺されてしまうよ。」
「アーロン…私はこれでも第八代王女なのよ。」
「…?」
「私は昔今の王女と同じ事をしてしまって罰を受けたの、今になって自分がどんなにしてはいけない事をしてしまったのか、よく分かるわ。今の王女に私と同じ道を辿らせたくない。だから…私が行くわ。」
アーロンは少し黙った後言いました。
「それが、君の答えなんだね?」
ローズはコクリと頷きました。
「分かったよ。だけどこれだけは約束だよ、必ず生きてまた会おう。」
アーロンはローズを抱き寄せるとキスをしました。
すると、ローズの姿がだんだん元の人間へと戻って行ったのです。
「元に戻ったわ!アーロンのおかげね。」
ローズはアーロンに微笑みました。
「じゃあ行こうか!この国を変えに!」
アーロンとローズは二人で城に出陣したのでした。
アーロンは今の王女のいる豪邸まで着くとローズを下ろしました。
「ここからは一人で行けるな。」
「うん。」
「俺は周りの騒いでいる兵士共を蹴散らしてくるよ。」
アーロンは冗談めかしく笑うとたくさんの兵士達の中へ入って行きました。
ローズは大きく深呼吸をすると、目の前にある大きな扉を開けました。
「王女様はいるかしら?」
「だ…誰だっ!」
王女の護衛の兵士が瞬時に振り向きローズを取り押さえました。
ローズは薄笑いを浮かべながら言いました。
「あら、もう忘れちゃったの?前の王女様の顔を」
妙な沈黙の後に兵士がローズを解放しました。
「ま…前の王女?なんでここに……。」
「魔法で殺されるぞ!」
「助けてくれー」
兵士達はさんざんわめき始めました。
「静まりなさい!私はあなた達を殺すためにやってきたのではありません。」
兵士達はいっきに静まりました。
「では、なんのためにきたのでしょうか?」
一人の兵士がたずねました。
「私は、私と同じ過ちをしている人間を止めに来たのよ。」
すると王女のマリアがローズを睨みました。
「あら、元王女様、私は間違った事などしておりませんわ。」
「では聞きますが、なぜあんなに国の草花は死に絶え、人々がやせ細っているのですか?」
「それは国の人間がダメなだけよ。」
「そうではないわ!」
「仮に私が王女の座を降りて、あなたが王女になったとしてこの国は変わってとても美しくなるという自信はあるのかしら?」
「あるわ!やってみせる。」
「口だけは達者なようね。」
ローズは立ち上がると、大きな扉を開き言いました。
「あなた達私が今からすることをその目にしっかり焼き付けなさい。この国が美しくなるための第一歩です。」
ローズはそう言うと魔法を唱えました。
「ヴァルカルローザ」
すると、国中にたくさんの草花が生え、木には果実が実りました。
長年魔法を使っていなかったのと、いっきに使い過ぎたせいでローズは倒れてしまいました。
ローズが目を覚ますとアーロンが目の前にいました。
「あぁローズやっと目を覚ました。もう目覚めないかと思ったよ。」
アーロンはそう言うとローズを抱きしめました。
「アーロン…国はどーなったの?」
「君のお陰でとても美しくなったよ。前の王女が座をおりて、国の皆が君を王女にしたいと言っていたよ。どーするんだい?」
「そりゃもちろん決まっているわ。」
ローズはニッコリ微笑みました。
昔々あるところにとても美しい国がありました。青々とした草が生え、たくさんの果実がなる木があり、国民は皆とても明るく幸せな毎日を過ごしています。
そんな国の王女様は城下で食べ歩きなんかしながら夫と楽しい時間を過ごしているのでした。