爆でっ
「爆弾低気圧……なにコレ? また流行の造語?」
本番前のスタジオセット裏。いかにも慣れたような手つきでぱらぱらと資料をめくりながら、それでいて堂々と臆面もなく、こいつは簡単に聞き返してくる。そんなことにはもう慣れたと自己暗示をかけていても、自分の声に怒気が交じるのは分かってしまうのだからどうしようもない。
「もういい加減新米じゃないんだから、それくらい……。天気予報なんて専門職なんだから、自分の仕事に関わることぐらい気にしなさいよね」
「あーもぅ、またそうやって偏見。先輩だって資格持ってるんだから知ってるくせに。気象予報士は知識の範囲広いんですっ! またゲリラ豪雨みたいな表現かと、ちょっと思っただけじゃないですか」
「うるさいわね、そんなことで気軽にいちいち聞き返さないの。もうちょっとレギュラーの自覚持ちなさいって話でしょ」
「いいじゃないですか、けち」
「けちって。……時間よもう行きなさい」
「行きますよー言われなくても」
いつまで経ってもあどけなさが抜けない仕草で、散々ゴネながらもセットに向かっていく彼女は、この看板ニュース番組のレギュラーお天気キャスター。抜擢されてから、もう一年になるだろうか。自分の後を継いだ当初からの変わらない新米っぽさを残しながらも、実はあれでいて立派に役割をこなしていたりする。逆に飾らない人柄も番組スタッフの受けがよく、おまけに時代にもあっているようでなかなかの人気だ。
さっきのやりとりだってそうだ。爆弾低気圧も長く使われている単語ではあるが、ゲリラ豪雨と一緒で気象予報の用語ではなくただのマスコミ用語で、彼女の考えは的をえている。自分が今ここに居るのも仕事ではあるけれど、こうして立派に仕事している彼女の姿を心配ながらも微笑ましく見守るためで、
「さて。急速に発達する低気圧、と気象予報用語で表現されるこのお天気の原因ですが、一般には爆でっ……失礼しました……」
うん、前言撤回。
この手の造語って未だに毎年出てきますね。ややこしいことこの上なし。
最近、天気予報を上回る天変地異が多い。時事ネタが古いことから執筆時期が知れますが(笑 2013年現在の彼女はベテランのはずだけど、はたして成長しているのやら?
成長してても噛んでそう(笑