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第9話 幸せな時間と永遠の別れ

あのあと私は本田君…

“俊則”が帰ろうとする前に告白した。


俊則は目を回しながら、そして涙を流してすごく喜んでくれて。


実は俊則。

保育園の時一緒で。


その時から私のこと好きだったって。


(あうっ!?…恥ずかしい…)


私はどうしていいか分からないくらい赤くなっちゃっていたんだ。


そしたらなんか今日はたまたま早くお父さんとお母さんが帰ってきて。

そのまま両親に紹介することになっちゃって…


俊則、可哀相なくらい緊張してたけど。

最後にお父さんに「娘さんとお付き合いさせてください」って言ってくれた。


感動しすぎて。

なんか私、『もう結婚してもいいかな』って思っちゃったくらいだった。


それで俊則が帰った後、両親から凄くしつこく色々聞かれて…


一応知っていることは全部話したの。

バイトの時の事とか。


その、親友の事も。


そしたらもう家族3人で大泣きしちゃった。

お父さんなんか「もう一緒に暮らしたらどうだ」なんて言い出す始末。


でもお父さんもお母さんも、凄く気に入ってくれて。

私は本当にとても嬉しかったんだ。



※※※※※



一応付き合い始めたことにはなったけど。

俊則はお母さんのこともあって毎日忙しくて。

たまにバイト終わりに私の家まで送ってくれる時にお話ししたり。


そんな日々。

私はどんどん彼に惹かれていった。


それに俊則、最近お洒落になってきて。

なんだか少しやせて、カッコよくなってきたんだよね。


「舞奈に恥ずかしい思いさせたくないからさ。俺も少しは格好つけたいんだ。だって……舞奈可愛すぎて……心配なんだ」


もう。

この男は私をキュン死させたいのだろうか?


私の好きは、毎日加速的に増していったんだ。



※※※※※



7月に入ってすぐ。

私たちの学校では期末試験が行われた。


あれから俊則のお母さんも少し体調が良くなって、短い時間だけど働くようになったみたいで。


そしてお金がない事で大学をあきらめていた俊則だったんだけど、うちのお父さんがアドバイスしてくれて。


彼は真剣に勉強に打ち込んだ。


うちの高校は偏差値が52くらいの高校だった。

びっくりしたんだけど。

俊則、実は新入生代表挨拶をしていたくらい自頭は良かったんだよね。


色々諦めていた彼は。

ランクを2つくらい下げて、アルバイト可、家から近いということで。

うちの学校に入学していたんだ。


1年のころは本当にバイト中心で。

500人中450番くらいだって言ってた。

因みに私は100番くらい。


それで俊則はアルバイトを少し減らして、怖いくらい勉強に集中していたんだ。


心配になった私は


「お父さんああ言ったけど、別に就職でもいいんじゃないの?」


俊則にそう言った。


でも彼は


「俺は舞奈と将来結婚したいんだ。絶対幸せにしたい。……つまらない話するけどさ、やっぱりお金って大事なんだよ。俺は要領が悪いからさ、少しでもいい大学に入っていい会社に勤めたいんだ」


しれっとそんなこと言う俊則に、私は毎日ドキドキさせられていたんだ。


せっかく両親公認なのに。

……実はまだキスもしていなかったけど。


そして運命の期末試験が終わり。

結果を見て私は魂が抜けるほど驚いた。


俊則が“学年3位”になっていた。


そしてクラスの女子の目が劇的に変わっていく。


私と彼が付き合っていることは実は誰も知らない。

私は良かったけど彼が言わない方が良いいんじゃないかって心配していたからだ。


「俺みたいな不細工と付き合っていることがばれたら舞奈いやじゃない?」


私はなんか秘密にしていることが、逆にかっこいいと思ってしまっていた。


「ううん、そんなことないけど。でも、2学期からは教室でもお話ししたい」

「ああ、俺も真剣に頑張るよ。舞奈が恥ずかしくない彼氏になって見せる」


私は舞い上がっていた。

そして。


――うぬぼれていた。


実は俊則が優しいのは今に始まったことではなかった。

思い起こせば彼は保育園の時から優しかった気がする。


ごめんだけど――あまり覚えていないけどね。


彼は中学時代も勉強ができ生徒会に所属。

風紀委員長とかもやっていた。


フェミニストの彼は特に女性には優しかったから、実は隠れファンがいたらしい。


お父さんが亡くなったのが中学3年の4月。

そこから彼は色々諦めた。


だからミーハーな隠れファンたちはいっせいに彼から離れていったのだけれど。


でも、わたしのほかに一人。

ずっと彼を見ていた女の子がいた。


一個下の1年生の高木絵美里。


あの、頭のおかしい女が。



全ての運命を狂わせた。



※※※※※



夏休みに入ると、俊則は泊まり込みで10日間ほどアルバイトに行ってしまっていた。


私はとても寂しくて拗ねたりもしたけど。


俊則は一度電話してくれて


『8月5日に会いたい、デートしよう』


って誘ってくれたんだ。


えっと昔だったから、ケータイは学生で持っている人はいなかったんだよね。


だから電話もすごくうれしかったし、駅で待ち合わせをして、海沿いの水族館に行く約束をしてくれて本当に嬉しかった。


私は嬉しすぎて舞い上がっていた。

なんかお母さんもやけに気合が入って、凄く可愛い髪形と、少し大人っぽいお化粧までしてくれて。


わたしはウキウキで待ち合わせの場所に行った。


そこには。

今まで見たことがない、かっこいい俊則が待っていてくれて。


私を優しく見つめる瞳。

――わたしは思わず呆けてしまっていた。


「舞奈、可愛い。……会いたかったよ」

「うん。俊則、わたしも」


周りに人がいることなんて関係ない。

私は夢中で彼に抱き着いた。



※※※※※



腕を組み、歩きながら、彼の優しい声を聴く。

田舎で農業の短期集中バイトに応募していたんだって。


もう誰も。

――俊則を馬鹿にする人はいないと思う。


凄くお洒落な服を着て、やせて筋肉質な彼。


本当にかっこよくて。

私は幸せの絶頂にいたんだ。


デートは最高だったし、素敵だった。


確かに彼は女の子と付き合ったことがなかったし、わたしだって初めてだ。


だけどなんだろ。

慣れているとかじゃなくて、凄く優しい。


何より私をとても大切にしてくれる。


マニュアルとか、人から聞いたとかじゃなくて、心の底からの思いやりにあふれたデートは、わたしの心を完全に打ち砕いた。


水族館で可愛いクラゲを見て、わたしたちはいつの間にか自然に腕を組んで。

凄く混んでいるから、彼は優しく肩を抱いてくれるし。


自然と距離が近くなって…


私は生まれて初めて好きな男の子とキスをしたんだ。


ちっともロマンチックじゃなかったけど。

だって、お互い緊張しすぎて。

歯をぶつけあって痛くて(うずくま)っちゃうし。


でも最後に、本当に子供みたいなキスをしたんだ。


本当に嬉しかったんだよ?

もう離れないって、ずっと一緒だよって、


――お互い思っていた。


そしてその日の夕方。


繁華街の交差点、信号待ち。

家路を急ぐ、名も知らぬ多くの人に囲まれ――


伝わる彼の温かい手。

はにかむ笑顔。


これから始まる、彼との思い出…


「…ねえ、舞――」


ドンッ!


世界が止まる音――


(っ!?)


そして――


「……あはは…やっと…」

「っ!???!!??」


モノクロになる世界。


のそりと立ち上がる知らない女。

まるで物のように崩れ落ちる愛おしい人。


「あ…あ……ああっ!?……い、いやああああああああっっっ!!!」



※※※※※



何が起きたか分からなかった。

俊則の背中から、まるでスローモーションのように赤黒い血がどくどく流れて。


そして、刺さった場所が悪く俊則は。


即死。


もう


――彼の声は。


聞くことが出来なくなってしまったんだ。


わたしの絶叫と

知らない女の笑い声と


救急車の音――



もう世界は――わからなかった



※※※※※



私は多分。

1か月くらい狂ってしまっていた。



後で聞いた話だけれど、あの頭のおかしい女は初恋をこじらせていたようだ。


中学1年の頃、俊則に助けられ。

それからずっとスト-カー行為を行っていたあの女。


そして自分ではない、つまり私と付き合っている姿を見て。


殺してから自分も死のうとしていたらしい。



詳しい事は知らない。

知りたくもない。




そして。

私は二度と。



好きな人を作ることが出来なくなっていた。


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