第4話 転生と勝ち取ったスキル
まさに神の園。
神々しい世界、清廉な神気。
無駄に格調の高いテーブルセットで目が合う二人。
私と名前の長いポンコツな神が同時にため息をついた。
「あのね。ため息つきたいのは私なんだけど?…間違って殺されるとか。どうしてくれるのよ」
「うう、すみません」
「ねえ、本当にもう戻れないの?」
「……はい」
私は天を見上げる。
(…嗚呼、お父さん、お母さんごめんなさい…)
彼氏とかいなかったから。
――まあ、そこは良いけどさ。
(……加奈子――びっくりしただろうな)
どうにもならない焦燥感と諦観の念。
そんな打ちひしがれた私に、神は問いかけてきた。
「あのー、舞奈様?……取り敢えず転生しませんか?……ここには長くいられないんですよね」
私はジト目で睨み付ける。
「うっ、そのですね、ここってほら、神の場所なんですよ。その、普通の魂だと、だんだん消耗しちゃって、――消えちゃうんですよね……ハハッ、ハ…」
「…サービス――してくれるのよね?」
「っ!?そ、それはもう、存分に」
私は大きくため息をつく。
神がビクッと肩を跳ねらせる。
「ねえ、違う世界にも行けるの?」
「あーすみません。無理です」
「ふううううう」
「ううっ」
※※※※※
私は腕を組み考える。
確かコイツは…
(…あの“クソゲ―”の第2部とか宣っていたわよね…)
脳裏によぎるゲーム画面。
私はついこの前。
完全クリアーをし、スチルを回収し終えたところだ。
無駄に“もったいない精神”が高い私は、隅々までクリアーしている。
きっと…
(…こいつよりも――知識は多いはずだ)
「――“鑑定”ちょうだい」
「えっ?」
「んー。あと“ストレージ”と“健康”、それから……問題ない立場と後ろ盾も」
私の言葉に顔色を青ざめさせ、神は私に縋りつく。
「あっ、そのですね、付与できるのは一つの立場と、中級のスキル…なんだよね」
私は神を睨み付け、振り払う。
「勝手に間違って殺したのは誰かしら?」
「うぐっ」
「ああ、そうだわ。“創造系”と“隠蔽系”も欲しいな。あと――転移とか時間移動があったら楽よね」
「っ!?いやいや、あの世界の魔法は小さな火を出したり、風を起こす程度なんだよ?転移魔法なんて、ない世界なんだよ?時間移動とか在りえない!」
慌てふためく神。
私は勝ち誇った顔でいくつかの情報を与えてやる。
「大魔法使いレギウス」
「っ!?」
「――使えたはずよね。まあ、おとぎ話だけど」
「なあっ!?……な、なぜ、そ、それを……」
私は笑みを止め。
真直ぐに神の瞳を射抜く。
「38歳の社会にもまれた社畜を舐めないでもらいたいわね。貰えるものは根こそぎもらうわよ」
「い、いや、でも……」
「ふふっ、あなた『新進気鋭』なのでしょ?……上司、いや、より上位の神様いらっしゃるわよね」
がっくりとうなだれ、天を見上げる。
そして。
大きなため息。
「…あの、一応ゲームが元の世界とはいえ、あそこの住人たちは生きています。生活しているのですよ。……滅ぼさないと約束だけはして欲しいのですけど……」
「あのねえ、わたしを何だと思っているのよ。そんなつもりあるわけないじゃない。それで?くれるの?くれないの?……他の神様呼ぶ?」
「はあ、わかりました。……でも、転移はダメです。あれは世界の摂理を捻じ曲げる物だから。時間移動なんてパラドックス引き起こして世界が滅んでしまいますよ。他はまあ、しょうがないので……」
「ああ、あと一つ」
「っ!?まだなにか?」
「向こうの世界からあなたと繋がる手段を頂戴」
「っ!?」
「だって本当にくれるか今確認できないのでしょ?」
神はがっくりと膝から崩れ落ちた。
※※※※※
「ふぉっふぉっふぉ、あきらめろ。このお嬢さんはお前より数段上手じゃ」
突然神々しい光が周囲を染め上げる。
顕現する、いかにもといった“美しいお爺さん”。
(――美しいお爺さんって…なんか変な表現だけど)
他に適切な言葉が今の私には無かった。
「あう!?…そ、創造神ゼナラナス様!?」
思わず土下座の体制になる神。
どう見ても偉そうな“お爺さん神”が面白そうに顔を緩め、わたしに視線を向ける。
「すまないのう。今回は完全に我らの不手際じゃ。コイツの言う通り地球に戻すことはできん。じゃからお前さんの希望は可能な限りかなえよう。そして……」
「っ!?」
突然私の中にこのお爺さん神の言葉が響き渡る。
『念話という特別なスキル、というか能力じゃ。これでいつでもわしと話が出来る。これで勘弁してくれるかのう』
『……わかりました。謹んでお受けいたします。私のわがままを聞いてくださり、ありがとうございます。絶対に世界を滅ぼすことはしないと誓います』
『うむ。……賢い子じゃな。安心した。……まあ好きにしなさい。気に入らないことは人を殺めぬ範囲であれば見逃そう』
「おい、オルゴイルドよ。話はついた。さっさと付与して転生させるんじゃな」
「は、はい。直ちに」
打ちひしがれていた神が、真面目な顔して私に向き合う。
まあ、確かにとんでもない美形だ。
見つめられ不覚にも顔が赤くなってしまう。
「えっと舞奈様、それでは付与と、転生の儀式を始めます」
「はい、お願いします」
「……本当に申し訳なかった。……幸せになってください」
「……色々無理言ってごめんなさい。……ありがとう」
何事か呟き、光を纏う神。
神々しい気配が急激に強まり、私の意識が消えていく。
ゲームの舞台であるルイラート王国へと。
転生したんだ。
※※※※※
勝ち取った多くのスキル。
始まる幾つもの運命。
それは。
この時の私の想像を超え。
大いなる次元を超える想いの物語が。
その幕をあげた瞬間だったんだ。




