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第31話 俊則の想いと願い

「…ん…?なんだ?……外?……なんか騒がしいな」


宿屋で夜を明かした俺は。

外から聞こえてくるざわめきで目が覚めた。


窓に近づいて外を見ると、やけに多くの住民が門の方から長い列を作っている。


「どうしたんだろう?やけに人が多いな……」


ちらりと寝ている二人に視線を向ける。

安らかな寝息を立てていた。


昨日の夜町をぶらついた時に、町では2日前から王都側の領門を封鎖したとか聞こえてきたけど……


それの関係なのだろうか。


(…確か治安がおかしいとか――気を引き締めた方がいいかな…)


そんなことを考えていたら、ドアがノックされ声を掛けられる。


(――宿屋の“客の部屋”を叩く?)


そんなことあるのだろうか。

俺はドアに近づき、小さな声で確認をしてみた。


「……はい、なんでしょうか」

「ああ、良かった。まだいらしたのですね。その、ドアを開けてもらっても?」


男性?

……嫌な気配はしないな。


俺は静かにカギを開け、するりと外へ出る。

さすがに寝ている女性がいる部屋に他人を招くわけにはいかない。


こざっぱりとした執事服のような服を身に着けた、40歳くらいに見える男性が所在なさげに佇んでいた。


「あのっ、マリアは、娘は無事ですか?ああ、すみません。あなたが助けてくれたことを聞いた者です。デリクといいます。マリアの父親です」


俺は肩から力が抜けるのを感じていた。


「シュラドです。良かった。ええ、マリアちゃんは無事です。今眠っていますよ。……すみません。もう一人女性が寝ているのです。連れていくので下の食堂でお待ちいただけますか?」


デリクはシュラドの手を握り、涙を流しながら大きくうなずいた。


「ありがとうございます。この御恩は絶対に…」

「しーっ、……まだ寝ています。お静かに願います」


デリクは顔を赤くし、頭を下げ小さく了解の意を表して、階段を下りていった。



※※※※※



「シュラドさんっ!助けてくれてありがとう。……あのね……」

「ん?どうしたの?」


あの後すぐ。

二人とも目を覚ました。


やはりデリクさんの声が大きかったようだ。


俺は事情を説明し、絵美里ちゃんには部屋で待っていてもらって、マリアちゃんをデリクさんに引き渡したところだ。


そして帰る前に俺はマリアちゃんに声を掛けられていた。

マリアちゃんは顔を赤くして急にもじもじし始める。

そしてそーっと俺を見上げた。


「うん?」

「あ、あのね、シュラドさんが結婚してほしいなら、わ、わたし、結婚してあげるからね」


「うん????」


「もう、ちょっと屈んで!」


俺の服を引っ張るマリアちゃん。

言われるままに俺は屈んだ。


「チュ♡」


頬に柔らかく温かい感触がした。

マリアちゃんは真っ赤だ。


「……シュラドさん……バイバイ」

「ははは、シュラドさん。お世話になりました。この御恩は忘れません。私はウッドストック侯爵様のお屋敷で働かせていただいております。何かありましたらぜひお尋ねください」


「ありがとうございます、デリクさん。その時にはお願いします。……マリアちゃん、ありがとうね。嬉しいよ。……元気でね」


俺はマリアちゃんの頭を撫でる。


「うん。シュラドさん……大好き♡」


二人は何度も振り返りながら宿屋を後にした。


よかった。

本当にそう思った。


あの時助ける事が出来て、本当に良かった。

俺は心が温かくなっていくのを感じながら部屋へと戻っていったんだ。



※※※※※



部屋に戻ると絵美里ちゃんは俺をまっすぐ見つめる。


覚悟が決まったのだろう。

彼女の瞳には決意が浮かんでいた。


「絵美里ちゃん、俺は今から領主様、侯爵様を訪ねる必要があるんだ。……俺考えたんだけどさ、絵美里ちゃんも一緒に行かないか」


「えっ、でも……私は……」


俺は向かい合うベッドへ腰をおろし、彼女を見つめた。


「俺はまだこの世界に来たばかりだし、この体の“元の人”はもういない。だからこれが正解とか分からないんだ。でも俺は、君が苦しんでいることを知っているよ。今も、そして中学校の頃もね」


「っ!?……うん」

「もしかしたら君は処刑されるのかもしれない」


絵美里ちゃんの顔色が青くなっていく。


「でも俺は絶対にあきらめないよ?土下座でも何でもして、少しでも罰を軽くしてもらうよう一緒に頼みたいんだ」


「どうして?……わたし先輩に…あんなに酷い事……したのに」


絵美里ちゃんの瞳から涙があふれてくる。


「正直分からない。俺は今も舞奈の事を愛している。そして君を許せない気持ちもあるよ」


「……うん」


「でもさ……反省したんでしょ?たくさん謝ったじゃん。俺は君を許すことにしたんだ。……そして守りたいんだ。……可愛い後輩に、格好つけたいんだよ。俺は先輩だからね」


「グスッ…ヒック……もう、そんな…こと…うう…言われたら…ヒック……我慢できないよ……先輩」


絵美里ちゃんが俺に抱き着いて来た。

俺は抱きしめないけど…


優しく頭を撫でてあげる。


「俺さ、全然女の子のこと分からなくて……でもありがとう。俺のこと好きになってくれて」

「うん。好き……大好き……うああ…ああああ……あああああああ」


泣いている絵美里ちゃんはすごく幼く見えて。

なんか消えてしまいそうで。


俺は舞奈が好きだけど。

浮気なんて絶対したくないけど。


でも今だけは。


絵美里ちゃんがすごく可愛く見えて、消えそうに儚くて――


俺は彼女を強く抱きしめた。


彼女の匂いと感触は、経験のない俺にとってたまらなく魅力的で……

このまま彼女を感じたい。


――衝動が駆け抜ける。


でもさ。

そういう事じゃないじゃんね。


俺は彼女が泣き止むまで、心からの信愛の感情をこめて抱きしめ続けていた。


だって。

目の前のこの子は。


俺の大切な後輩。


――壊れちゃいそうだったんだ。



※※※※※



俺たちは準備を整え、宿屋を後にし。

二人並んで侯爵様の邸宅に向かって歩き始めていた。


彼女は宿屋で購入した服を身に着けて、今は普通の町娘のような格好をしている。


昨日の格好は目立つし、俺には刺激が強すぎるからね。

凄く遠慮されたけど、無理やりプレゼントした感じだ。


格好つけていたけど……


さっきは。

……危なかったよね、実際。


ああ、女の子ってなんであんなに柔らかくていい匂いがするんだろう。


シュラドさんは25歳って言っていた。

かなりイケメンだからきっと経験あるんだろうけど……


俺自身は童貞だし、まだ17歳だ。


思春期真っ盛りの健康な男子なんだ。


(…一部反応しちゃうのは――しょうがないと思うんだよ)


俺はそんなことを考えつつも。

この先に訪れる運命に。


漠然とした不安と期待に。

すこし身震いしていたんだ。


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