第3話 間違えられた私
無事ウッドストック家へ戻った私は、静かに気合を入れた。
これから野盗との対面。
その前に――もう一度、自分の力を確かめる。
“鑑定”
すべては、この力から始まった。
そして私は思い出す。
あの日――間違えられた転生の瞬間を。
※※※※※
「っ!?」
見渡す限り真っ白な空間。
現実味のない状況――
(…何よココ…何にもないじゃん)
そう思った瞬間、私の前で薄い靄が空間に湧き上がる。
徐々に人の形に変わっていくそれを、私は意味も分からず呆然と見るしかできなかった。
※※※※※
「…ねえ加奈子、あれ、もうクリアーした?」
さっきまで私は。
加奈子の部屋でビール片手に他愛もない話をしていたはずだ。
「んー『愛の狩人~美しすぎる男たち~』?もうやってないよ。だってさ『第2部』ってただのエロゲじゃん。アダルトビデオかよって。嫌いではないけどさ。まじ萎えた」
だらしない格好でソファーでビールを飲んでいる加奈子。
「ねーそれよりさ、聞いてよ。あのクソエロ部長キモ過ぎでしょ。いやらしい目で見てくるし。…はあーもうやめようかな、仕事」
「ははっ。加奈子がエロい格好で仕事行くからでしょ?。流石にアレはないと思うよ」
この子は私の唯一の親友、山際加奈子。
一つ年下だが同じタイミングで入社した同期だ。
もうかれこれ15年以上の付き合い。
いわゆる“腐れ縁”。
「それより加奈子、近藤君とはどうなってんのよ?この前メチャクチャ愚痴られたんだけど?」
加奈子は開いたビールを放り投げ、ごそごそとレジ袋から新しいチューハイを取り出しながら面倒くさそうに口を尖らせた。
「だってさアイツ、受付の美弥ちゃんといちゃいちゃしているんだよ?――知らないしあんな奴」
不満を募らせたような顔をし、缶を開け一気に流し込む。
「……ぷはあ、…どうせ男は若くて可愛い娘の方が良いんだよ。枯れてるあんたにゃ分かんないだろうけどさ」
そしてなぜか私に投げつける。
「痛っ、ちょっと、酷くない?私悪くないよね」
ジト目で睨む私。
そっぽを向きふくれっ面をする加奈子。
加奈子は拗ねるととても面倒くさい。
長い付き合いの私は早急に対策を講じることにした。
そっと加奈子の隣に移動し、彼女を優しく抱きしめる。
この子は家庭の事情で人の肌に飢えているんだよね。
「ん……舞奈、あったかい。……グスッ……ヒック…」
私は優しく頭をなでてあげる。
とても37歳には見えない可愛い加奈子は、こういう時はまるで子供のようだ。
「悔しいよお……美弥ちゃんに…取られちゃう……ぐすっ……」
「もう、大丈夫だよ……加奈子は可愛いんだから……」
私はずっと加奈子の髪の毛を撫でていてあげたんだ。
そして決してそういう趣味はない私たちだけど。
抱き合ったまま寝ちゃったはずだ。
明日は休みだったから、いろいろ気にしないでいたんだけど。
えっ、なに?
もしかして…
私
――死んだ?
(う、嘘でしょー―!??)
※※※※※
やがて。
人の形をとった靄は、美しい顔を愉快そうに輝かせ。
わたしに声をかけてきた。
「おめでとー♡やったね、君は選ばれましたーパチパチ。地球で不幸だった君に、新進気鋭の新神、このオルゴイルド・デルク・リーデンマイナルが特別に君の好きな異世界にご招待してあげるよ♡」
「………………はあ」
なんだかポーズを取りながら決め顔でうっとりしていやがる。
(一瞬かっこいいと思った私の気持ちを返してほしい!)
「ん?どうしたんだい?あまりの嬉しさで、パニックなのかな?心配はいらないよ、美弥ちゃん。君の好きなゲーム『愛の狩人~美しすぎる男たち~』の第2部の世界だからね。特別にいくつかのスキルもあげちゃうから、たっぷり憧れている彼らとエッチなことできるからね」
思わず固まる私。
はっ?
――美弥ちゃん?
私、“舞奈”だけど!?
「あの、質問いいですか?」
「ああ、何でも聞いてごらん?神であるオルゴイルド・デルク・リーデンマイナルが何でも叶えてあげるから」
「私“舞奈”ですけど」
ぴしりと音を立て固まる長い名前の神。
ギギギと音を立てながらこちらに顔を向ける。
「えっ?だって……き、君と一緒にいた女の子が――『美弥ちゃん』って……」
私はジト目で神を睨み付けた。
なんかだんだんポンコツに見えてきた。
私はわざとらしいくらい、大きくため息をつく。
「間違ってるよ。もう。神様なんでしょ?ちゃんと確認してよね」
「ううう、すみません」
打ちひしがれ両手をついて震える神。
なんだか少し可哀相に思えたのは内緒だ。
「もうしょうがないな。良いよ。許してあげるからさ、元に戻してよ。今日は役所に行く用事があるんだよね。せっかくの平日休みなんだから。シャワーも浴びたいし」
「………ううっ」
何故かうめき声をあげる無駄に長い名前の神。
恐る恐るこちらに視線を向けてくる。
目が泳いでいる!?
「あの、えっと、その……舞奈様?」
「っ!?舞奈様?えっ、何突然」
「あの、そのですね、ははっ、あははは、ごにょごにょ」
声が小さくなり聞き取ることができない。
私は猛烈に嫌な予感がしてきた。
「なんて?聞こえない。はっきりしゃべってよ」
「うう、あのですね、もう地球では、10日ほど経過しておりまして……」
「はっ?嘘でしょ?まさか?!」
「えっと、その、もう灰になっちゃってたりなかったりで…ははは…」
私は膝から崩れ落ちる。
加奈子の涙、兄の甥っ子の寝顔、
腰が痛いって言っていたお父さん…
そして。
自然に涙が零れ始めた。
「ちょっと、どういう事よ!信じらんない!!」
私の悲痛な叫びが、訳の分からない空間に響き渡っていたんだ。




