第25話 運命の――執着の出会い1
ロナリアが覚醒し始めたころ。
ウッドストック領を目指すシュラドは。
何度目になるか分からない盗賊の襲撃を、道沿いから外れた大きな木の陰で息をひそめやり過ごしていた。
傍らに幼い女の子を引き連れて。
遠くには門のようなものが見える。
あと2キロメートルといったところだろう。
「ぎゃははは、サイコーだな。おっ?へへっ、うまそうな肉を積んでいやがる。酒もあるな」
「ひっ、い、命だけは、お助け下さい。お願いします」
「あー?どうしよっかなー?うーん。……お前助かりたいの?」
逃げ遅れた年老いた商人が、数名の賊に囲まれている。
その周りには殺された御者と、血を流し息絶えた護衛騎士の遺体が転がされていた。
シュラドはその様子を血が出るほど強く歯を食いしばり見つめる。
自分の力のなさを情けなく思いながら。
※※※※※
あの日。
ミラナスの町で乗合馬車に乗り、2日後にはウッドストック領に入っていたシュラド。
その時。
乗合馬車は突然の襲撃を受けてしまう。
暴走した野党の、あまりの暴虐。
一緒に乗っていた冒険者が必死に抵抗したものの。
馬を殺され、12人乗っていた乗客のうち3名が殺されてしまっていた。
散り散りに逃げる生き残った9人。
追っ手をまき、深い森の中。
呼吸を整えたシュラドは改めて、自身の脳裏に意識を向けた。
シュラドはこの時。
日本の意識。
つまり“俊則の記憶”をほとんど思い出していた。
元の人格であるシュラド自身の記憶はまさに歯抜け状態。
だが。
シュラド本人の強い意志で、どうにか逃げる事が出来ていた。
「シュラドさん……ありがとう」
『……気に……しないで……私は…すでに死んでいます……でも』
だんだん消えていくシュラドの意識に、俊則は涙を止める事が出来なかった。
『危ない……時は…逃げてください…私……は、弱い……』
シュラドは、いや俊則は。
静かに心の声を聴いていた。
『あなたは……運命の……ひと…だ。……必ず……ウッド………』
そして。
俊則の心の中から温かいものが消えていく。
最後の力なのだろう、はっきりと心にシュラドの心が響く。
――『力を得てください。そのカギがきっとウッドストックの領主の場所にあります。……こんなこと言うの変ですが、あなたと一緒に過ごした2日間、楽しかったですよ。……絶対に会ってくださいね。……あと、私の名前を名乗ってください。あなたの名前はこの世界では目立ちすぎます。……さようなら、俊則』
俊則は目を瞑り、シュラドの冥福を祈った。
そして涙を拭き、絶対にたどり着くと心を決め立ち上がる。
襲われる直前に聞いた情報によると、もうウッドストック領には入っているようだ。
だが領都まではまだ20キロほどあるらしい。
シュラドは歩き出す。
決意を目に宿して。
幾度も襲われる馬車を横目にし。
悔しさに飛び出しそうになるのをこらえ。
街道沿いの森を進んでいた。
そして歩き始めて4度目の馬車が襲撃されたとき。
小さい女の子が殺されそうになって、シュラドは我慢の限界を超えてしまった。
その時の賊は4人。
そして3人は反対側で馬車を漁っていた。
シュラドはこぶし大の石を思い切り女の子を殺そうとしている男に投げつけた。
ゴッ!!
「うぎゃっ!?」
シュラドは何らかのスキルを持っていたのかもしれない。
投げつけた石は奇跡的に男の額に命中し、男はたまらず倒れ込んだ。
シュラドは女の子をひったくるように抱え、森の中に身を隠す。
シュラド、いや俊則は普通の高校生だ。
当然喧嘩だってほとんどした事がないし、武術など全く分からない。
そして人を殺すことなど出来るわけがない。
でも。
彼は思う。
(俺がここに来たのには理由がある。
でも、この子を助けたことは絶対に間違いにはしたくない)
気絶し、顔に涙の跡が残っている少女を見つめる。
この子の両親はおそらくさっき殺されたのだろう。
自分に力はない。
だから絶対に逃げると決めた。
涙が止まらなかった。
でも現実は厳しい。
彼は女の子を背負い、静かに森を進んでいった。
※※※※※
「どうしよっかなー?殺しちゃおうかなー?んん?どうしたら良いと思う?」
「お願いします。つ、積荷は全部差し上げます。どうか、どうか」
きっと盗賊は。
すでに頭がおかしくなっていたのだろう。
領門からわずか2キロメートル地点での行為はすでに領門を守る兵士に伝わっていた。
すぐに駆け付ける10騎ほどの武装した騎馬に囲まれる。
「あー?なんだおまえら…グギャッ?!……」
槍で貫かれ殺される盗賊の男。
どうやらシュラドはたどり着くことに成功したらしい。
討伐される盗賊たち。
保護された年老いた商人が歓喜の涙を流している。
シュラドは女の子を引き連れて街道に姿を現した。
「すみません。この女の子、マリアちゃんを保護していただけませんか?ここに来る途中で盗賊に襲われていた子供です。お願いします」
騎馬隊のリーダーらしき男が馬から降りて、兜を外しシュラドを睨み付ける。
突然森から出てきたのだから、怪しまれるのは当然だろう。
シュラドは腰に括り付けていた小さなカバンから、ロイルードに貰った紹介状を取り出し、リーダーらしき男に差し出した。
そして反意がない事を示すように跪き、両手を開き前へと差し出す。
2日間の旅の間にシュラドに教えてもらった作法だ。
「…すまない。確認した。ようこそウッドストックへ。……最近物騒なんだ。勘弁してほしい」
「いえ、ありがとうございます。マリアちゃんをお願いしたいのですが」
「君も見ただろう。ここ最近おかしいのだ。……どうやら懐いているようだ。我々が先導する。一緒に行こう」
マリアは気が付けばシュラドに抱き着いていた。
シュラドの胸に温かい物が広がっていく。
そして無事領門を越え。
ついにシュラドはウッドストックの領都にたどり着く事が出来た。
刹那――
背筋に悪寒が走る。
シュラドは慌てて辺りを見回した。
キレイな女性が佇み、シュラドを射抜くように見つめている。
でも、なんだろうか。
シュラドは嫌な予感に、不安な気持ちでいっぱいになっていた。




