第22話 無法地帯の王都
「キャアアアアアアアア―――――――!!!!」
女性の悲鳴が王都の一等地で響き渡った。
邸宅が並ぶ整備された石畳。
停まった馬車から逃げ出す若い女性に、異常に興奮した様子の男が襲い掛かる。
「へへへっ。ああっ、興奮するう!!もっと叫べ、俺を喜ばせろおおおお!!!」
「いやあああ、やめてええ、あうっ!!」
顔を殴られ、地面に崩れ落ちる貴族の令嬢。
のしかかり、衣服を引き裂く貴族らしき男性。
慌てて見回りの衛兵が数人駆け付けるが。
衛兵のうち一人が突然仲間に剣を振り下ろした。
「ぐああああああ――――?!!」
「おまえが、お前がいけないんだ、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってえええええ!!」
激昂して同僚に何度も剣を突き刺す若い衛兵。
その間にも貴族女性は男の欲望に襲われていく。
広がっていくカオス。
「あっ、いや…やめて…いやあああああああ――――――!!!」
「はああ、いいぞ、もっとだ、ぎゃはははは!!!!」
「くそっ、このっ!!」
何とか難を逃れた衛兵の剣が、乱暴を働く男の首をはねる。
暴れていた衛兵も同僚に胸を貫かれ、どうにか悪夢のような騒動は収まった。
実にこの一瞬で失われた3名の命。
襲われた女性の精神的ショックは計り知れない。
貞操は守られたことが不幸中の幸いだったが……
泣き崩れ、すすり泣く声がいつまでも響いていた。
このようなことが王都内のいたるところで発生していた。
※※※※※
ウッドストック領でも、犯罪の魔の手が猛威を振るう。
王都から流れてきた男性の多くがミリーの影響を受けており、暴虐の限りを尽くし始めた。
最初に襲われたのは冒険者ギルドの受付嬢だった。
休憩時間に昼食を取ろうとギルドを出たその時。
いきなり後ろから襲われてしまう。
頭を殴られ意識を失った受付嬢。
あばら家に連れ込まれそうになったところを、たまたま巡回警備をしていた領主付きの騎士数名が発見できたのは不幸中の幸いだろう。
どうにか事なきを得たが。
捕らえられた、最近領内に移り住んだばかりの低級冒険者パーティーの男性たちは。
意味の分からない事を喚きながら暴れたため、無力化し伯爵家の地下牢へと連行された。
そして。
多くの場所で同様な事件が発生。
伯爵家の地下牢はすでに満杯になり、今は取り調べを行うための準備に追われていた。
その後も続々と連行されてくる犯罪者たち。
入れる場所がないため今は拘束を強化し庭園に並べているありさまだ。
ようやく騒ぎが沈静化したころには100名を越える犯罪者が集まっていた。
残念ながら6名の被害者が出てしまっていた。
妙齢の女性が4人、男性が2人。
破壊活動などの町の被害は数えきれない。
もちろんロナリアのせいではない。
しかし彼女は、割り切る事が出来ずにいた。
※※※※※
(…やられた)
(考えが甘かった)
私は自室で、苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。
ミリーは…
シナリオなんて関係なく暴走をはじめていた。
能力で見なくても分かる程、犯罪に手を染めた人々の目は濁り切っていた。
私の“鑑定の解呪”を弾くほど強力な付与だ。
一人を鑑定したとき、余りの悍ましさに私は吐いてしまったくらいだ。
「あの女……何を考えているの?」
落ち着きなく部屋の中をうろついてしまう。
――分からない。
目的が全く思いつかない。
パンッ!!
「あーダメね私。こういう時こそプラス思考で乗り切らなくちゃ。せっかくもらったスキルでどうにかできないか検証しましょう」
私は自分の顔を強めに叩いて気持ちを入れ替える。
ふう。
さあ、がんばるわよ。
まずは解呪よね。
スキルがだめなら…“薬”はどうかしら。
私は意識を集中して手を前に差し出す。
「スキル創造!!超強力な解呪薬!!」
…………。
「………出ないわね」
(…イメージできていないものは出せないのかな)
頭がおかしいなら…
――正気に戻せばいいのよね。
(…よし、じゃあこれならどうかしら)
私は地球で最も臭いとされる果物と、ニシンの缶詰を思い浮かべた。
「スキル創造!!ドリアンとシュールストレミングのミックスジュース!!」
ゴロン……
おどろおどろしい色の液体の入った瓶がごろんと出現した。
密閉されているはずなのになんだか嫌な臭いが立ち込めている気がする。
「よし、鑑定!!」
◆◆
【名前】激マズ気付け薬(死なないけど絶対毒)
【効果1】ありとあらゆる状態異常を解呪する
【効果2】周囲50メートルはほぼ同様の効果をもたらす
【効果3】10日間匂いが消えない
【注意】好奇心で匂いをかがない事。激しい後悔に襲われる事でしょう。
◆◆
「……できた……けど、これ、どうしよう。……お母さまに相談ね」
私は20本ほど作成し、注意事項をしっかりと記し、創造した小型のマジックバッグに詰め込み、お母さまの部屋へと届けに行った。
(…恐いので強力な消臭剤も作ったよ)
私はお母様に説明し、カバンを含め色々なものを託すことにした。
「ロナリア、あなたはどうするのかしら。……この薬、恐ろしすぎるのですけど」
「すみませんお母さま。実は力を使いすぎました。…少し自室で休みます」
お母さまの顔が驚愕に染まる。
きっと今の私は酷い顔をしているのだろう。
気を抜くと倒れそうだ。
「ふう、わかりました。お母さまに任せてゆっくり休んで頂戴」
力を使いすぎていた。
強い力には代償があるのに。
私は何とか自室にたどり着き、ベッドへ倒れ込んだ。
大きな転換点。
この時の私は。
まだそのことに気づいていなかった。




