第20話 因果は巡る
さすが侯爵様だ。
驚くほど仕事が早い。
侯爵家から戻った私は、まずお礼を言うためにお母様の部屋を訪ねた。
侯爵様と曲がりなりにも会話できたのはすべてお母様のおかげ。
そこで紅茶をご馳走になり、何故か褒められ…
私は顔を赤くしてしまっていた。
「さすがはわたくしの娘ね」
優しく微笑まれ、先ほどの恐怖がよぎり。
涙が出たのは内緒にしていただきたい。
ルルもあの日以降、お母様との関係は良好だ。
感づいて辛く当たっていたハンナも、今はルルに対しとても優しく接してくれている。
大役を済ませた私。
和気あいあいとした雰囲気。
楽しいお茶。
精神が落ち着いていく。
暫くして。
私はお父さまに呼ばれた。
そして執務室で書類の束をお父様からため息交じりに渡される。
今回の顛末の報告書だ。
侯爵様との面談を終えてまだ3時間程度しか経過していない。
おそらく私が侯爵様と面談した時には。
もう全て終わった後だったのだろう。
私は自室に戻りながら、侯爵様の手腕に恐れおののいたのは言うまでもない。
貴族の会話も難解だが。
どうやら報告書もその流れを汲むらしい。
表現が独特過ぎて、良く判らないのだ。
面倒極まりないのでちょっとズルして鑑定を使ってみた。
要約するとこんな感じ。
◆◆
阿呆な野盗の残党5名と、のこのこ鼻の下を伸ばした貴族が当主を含め何と20名もいたらしい。
そしてその中に大物がいた。
第一皇子アレス殿下の婚約者であるマルガレド・ビルシュタイン侯爵令嬢の実の兄であるサナタスト・ビルシュタイン侯爵令息。
束縛時の様子から『精神異常状態』と記されていた。
後は伯爵家が当主2名と子息7名、子爵家当主が5名、子息が3名、男爵家当主が2名の合計20名が捕縛される大事件。
しかも一人当たり金貨100枚(日本円で約1000万円)支払っていたという驚愕の事実。
そしてお金は。
第2王子カイザー殿下に流れていた。
◆◆
「あほか」
報告書を確認した私の第一声がそれだった。
突っ込みどころが多すぎて頭が痛い。
大体私たちが偽装したとはいえ。
エリス嬢がいないのにどうして計画を進めるの?
そして何なの?
金貨100枚って。
確かにエリス嬢は美しい。
スタイルも抜群だ。
見た目と評判だけなら。
確かにお金を払ってでもエッチしたい人がいるのはまあ、無くは無いのだろう。
でも今回の事は誰がどう見たって犯罪。
しかも無理やり。
……凌辱だ。
おそらく例の“クソ女”が噛んでいるとはいえ、異常すぎる数字だろう。
もしかしたらこの世界は。
――わたしが思うより腐っているのかもしれない。
そして侯爵令息は。
間違いなくミリーの拙い偽装工作だろう。
――第2王子殿下の疑いを躱すための。
そして捻りもなくカイザー殿下に流れるお金。
「私が黒幕だ!!」
宣言しているようなものだ。
「はあああああああああああああ…」
私は特大のため息をついた。
(…馬鹿なの?)
ねえ、本当に馬鹿なの?
突き抜けすぎて本当に恐ろしいわ。
きっと単純に『侯爵家は偉い』くらいの考えだったのだろう。
だから一家だけでも良いと考えたのだろうけど……
精神異常状態?
こんなの無理やりに決まってんじゃん。
殿下はもういいや。
たぶん私には一生理解できない構造なのだろう。
頭が。
私は大きく息を吸い、吐きだす。
頭に上った血を巡らそうと、ついでに簡単な運動も行った。
「ふう、少し落ち着いた。ミリーは確実にスキル持ちだ。しかもたぶん厄介なものを持っている。そして多分――転生者だ」
私は自室で高い天井を見上げた。
スキルを使うために心を落ち着けさせる……
※※※※※
『創造神様、今よろしいでしょうか』
『……ふむ、どうしたんじゃ』
『私以外の転生者って…たくさんいるのでしょうか』
『……わしが知っておるのはお前さん以外に“3名”じゃな』
私は確信をもって創造神様に問いかける。
『…ミリーもそうですね』
『ふう………あれはわしらのミスじゃ』
なぜかため息交じりの感情が私にも伝わってきた。
『彼女は主人公ですよね。……内容は熟知しているのですか?ゲームの』
『のう舞奈よ。それを知ってどうする』
殺すこと以外は認めるとおっしゃって下さった。
でも私は。
今からその禁を破る宣言をする。
『……排除します』
『仕方ないの。あれは狂っておる。そしてお前さんも無関係ではない』
『っ!?…どういう…』
『わしはのう、おぬしのじいさまと知り合いなんじゃよ』
『えっ?』
『ふぉふぉ、おぬしのじいさまはな、人ではない。以前神だった』
『はっ?えっ?』
長野のおじいちゃんが創造神様と知り合い?
しかも。
……元神様?
意外過ぎる情報に私の頭は真っ白になってしまう。
『因果が巡る……聞き覚えはあるかの』
『……覚えてる』
『お前さんは大きな因果に囚われておる。2人とな』
私が小さいときおじいちゃんはいつも言っていた。
まさかそれをここで聞くことになるとは。
でも…
因果がある2人……
もしかして…
ううん。
今はそれそりも確認することが重要だ。
私は再度創造神様に覚悟を伝える。
断られて“罰”を受けるとしても。
『良く判りません。……でもミリーは排除します。許可してください』
『まあ仕方あるまいて。好きにするがよい』
『いいのですか?』
えっ。
そんなにあっさり?
『かまわん。じゃが一つ条件がある』
『……』
『運命を完成させて因果の巡りを止めるのじゃ』
『運命を……完成させる?』
『ふむ、全て聞いてしまってもよいのか?』
『……わかりました。足掻いて見せます』
『ふぉふぉ、それを聞いて安心した。まあ、焦るでない』
※※※※※
私は大きくため息をついてベッドへ倒れ込んだ。
まさか異世界に来ておじいちゃんの話が出るとは思わなかった。
(私と因果が巡っている二人……運命を…完成させる……)
私はある考えにたどり着き――
涙があふれだす。
「俊則……」
「あいたいよ…グスッ…ヒック……」
「うああ……俊則……あああああ」
※※※※※
あーあ、またルルに怒られちゃうね……
私は泣きながら意識を手放す。
起きたらきっと。
私の顔はパンダみたいになっているだろうな……




