第2話 作戦の進捗とよぎる過去
「ロナリアお姉さま、レイナルド様からです」
決意に燃え、うっかり握り拳をしていた私は。
可愛いルルの声で我に返った。
同時に沸く、多くの感嘆のため息。
やけにルルを見る多くの女性の瞳に熱がこもる。
実は今。
――私は多くの“女性”に囲まれていた。
百合…コホン――とある志向の皆さま。
ちょっとシャレにならない圧に、実は恐怖を感じていたりするのだが…
何しろロナリア。
とあるクラブの“会長様”だったりした。
ハハハ、ハ。
(えーい。今はそんな場合ではないのよ!切り替えなくちゃ)
「…ありがとう、ルル」
「いえ…えっと。飲み物、お持ちしましょうか?」
「…そうね。お願いできるかしら」
そんな会話を交わし、私は今ルルから渡された小さなメモに鑑定を施す。
(…ふうん。さすがお兄様ね――すでに確保…出立済み…か)
「まあ。ロナリア様?お連れの従者…とっても可愛いですわ」
「え、ええ」
(誰だっけ……『鑑定』………コーザル伯爵家の…“ミレット”…ね)
「ええ。わたくしの従姉妹ですのよ。ミレット様」
「はうっ♡…会長コホン…ロナリア様が…わたくしの名前を…♡」
(あー、うん……ロナリア、やっぱり“ガチ”だったのよね…ふう)
何はともあれ。
作戦は順調。
実はすでに殿下や3馬鹿、ミリー嬢はいつの間にか姿を消しているし?
もうこの会場にいる意味ないのよね。
あとは穏便に抜け出すのみだ。
私はそんなことを思い、何となく自分の事を思い出していた。
※※※※※
“高坂舞奈”。
それが転生する前の私の名前だ。
ごく普通の家庭で育てられた…普通…いや。
多少は可愛い女の子だった。
あとは――うん。
すこしだけ変わっていたかな。
貰ったものは気に入らなくてもダメになるまで使うとか。
散々告白されたけど…結局付き合ったのは一人だけとか。
遊園地とかに行くより田舎のおじいちゃんの家に行く方が好きとか。
(…おじいちゃん…もう15年も前よね…亡くなったの)
※※※※※
そんなこと思っていたら、ルルがキレイな色のジュースを持ってきてくれた。
さすがは卒業記念パーティー。
料理のレベルも高い。
「ロナリアお姉さま?…何か心配事ですか?」
「…え?いえ、大丈夫ですわ。…ありがとう、ルル」
――いけない。
もう覚悟したはずだ。
私はルルがもってきてくれた飲み物に口をつけ、ほっと息を吐きだした。
どうやら暗い表情をしていたらしい。
(もう悩まない――私は絶対にあの女を止める。決めたはずだ)
「コホン。ねえ、ルル。――“お花摘み”に行きません?」
「っ!?は、はい。…お供いたします」
「ええ。よろしくね――それでは皆様、少し席を外しますわね」
そういい女性の包囲網を抜ける私。
やたらと熱っぽい情熱的な瞳を向ける数人とあいさつを交わし、どうにか会場を後にした。
(うう…やっぱり慣れない…ていうか、恐過ぎでしょ!?)
恐るべし!
狂った乙女ゲームの世界。
ありとあらゆる性的な接触。
かなり緩いこの世界に、私は改めて身震いしていたんだ。
(はあ…まあ、今の“会長”は、ルルなのだけれどね…)
馬車に揺られ、そんなことを思い――
私は静かに目を閉じた。
※※※※※
「…なあ、いいだろ?…付き合えよ」
「っ!?」
(……夢?……はあ。どうせ夢なら――)
きっと今、私は夢を見ている。
会場で少し思い出したせいか、転生する前の情景が夢に出てきたようだ。
高校1年の冬。
屋上に呼び出され、いきなり体を触れられ。
初めて男子をぶん殴った。
そして。
なぜか夢なのに…鼻の奥がツンとして。
涙があふれた。
「……高坂さん?……う、うん…よろしく」
「っ!?…え、…マジで!?」
(――っ!?―――――うあ…と、俊則!?)
※※※※※
「…さま――ロナリアお姉さまっ!!――大丈夫ですか!!」
「うあっ!?――――あ、あれ?…ルル?」
揺れる馬車の中。
どうやら夢を見ていた私は。
突然大声を上げ、泣きだし。
さらにはまるでひきつけを起こすように激しく痙攣。
――ルルが大慌てで私を起こしてくれたようだった。
「ぐすっ。…こ、恐かった…ロナリアお姉さまが――急に…ヒック…」
「……ごめんなさい…もう大丈夫よ。…心配かけたわね」
私はそっと席を立ち、ルルの隣に座った。
優しく抱き寄せ、彼女の髪を撫でる。
「あうっ…お、お姉さま」
「うん。しばらく…このままで」
大切な従姉妹で可愛いルル。
わたしは彼女の髪を撫でながら――
一筋の涙をこぼす。
(……思い出しちゃった……俊則…)
※※※※※
――高校2年の時。
わたしは彼と…
本田俊則と。
同じクラスになった。
あの――すべてをあきらめたような瞳。
だけど人を思いやる素朴な優しさ。
気付けば私は、彼のことが想いの中心になっていったんだ。
そしてあの日。
すべては突然。
何の前触れもなく。
――終わりを告げた。
狂い。
――運命を恨んだ私。
だから…
38歳で死ぬまで。
私は誰とも付き合えなかった。
(…加奈子に『あんた重すぎ』――言われるわけだ…)
※※※※※
そんなことがよぎり。
改めて、転生した事実に。
私は唇をかみしめ、馬車に揺られていったんだ。




