第14話 男爵令嬢ミリー
王都近郊の街。
郊外の大きな屋敷の自室で。
ミリーは5日後の卒業パーティーに着ていくドレスを前に、顔をほころばせていた。
「んふふ♡これは殿下からの贈り物でえー、こっちはアントニオ様。それからこれは、まあ、ロローニ様ね♡――可愛い」
年相応に目を輝かせ、うっとりとした表情を浮かべる。
「えっと、それから…エスベリオ様からのもあるのね。…はあ、なんて素敵♡ああ、早く5日後にならないかしら」
まさに幸せの瞬間。
しかしそれは。
唐突に破られる。
オボルナ男爵家当主のジドーラが、ずかずかとミリー部屋を訪れた。
「おいミリー、どれかよこせ。どうせ着るのは一つなんだろ?売り払って娼館へ行く銭にするからよ」
下品にゲハゲハ笑い、いやらしい目をミリーに向ける男爵。
異様な魔力。
それを纏うジドーラは、何故か瞳を濁らせる。
「…お父様。…ノック位してくださらないかしら。淑女に対して失礼ですわよ」
「ふん、お前なぞただの“金づる”だ。いつも言ってるだろうが。――それとも久しぶりに“気持ちよく”してやろうか?んん?」
彼らは。
――実の親子ではない。
男爵令嬢ミリー。
設定上全く情報は出てこないが。
――実は拾われた子。
そして彼女は……転生者。
一番与えてはいけないスキルを。
この“頭のおかしい女性”は得ていた。
ジドーラはミリーに近づくと、いきなり体に手を伸ばす。
「いやっ、お父様?!やめてっ」
「ふん、無駄に育ちやがって。ぐふふっ、確かにいい具合だなあ」
抵抗するミリー。
それをあざ笑うかのように、強引にベッドへと押し倒し、顔を近づける。
「へへっ、気が変わった。どうせおまえはすぐに出ていくんだ。とっくに聖魔法の資格を失ったお前だ。…今更変わらねえだろうがっ!」
「やっ、いやあ!?やめてよっ、――あうっ!?」
ぱし――ん
響き渡る音。
赤くなるミリーの頬。
「このっ、おとなしくしやがれ。へへっ、いい具合だなあ、くくっ、若い女の匂い――たまらん」
「だめっ、いやあ、やめてっ、ああっ!?」
ありえない暴挙。
養女とはいえ、娘に向けるその行為。
まさに散らされる。
――その時!!
バンッ!!
「ミリー!?…こ、この愚か者があああ!!!」
「ぐああああああ――――?!!」
ドアを乱暴に開き、部屋に飛び込むロローニ。
覆いかぶさっているジドーラを、力任せに引きはがす。
怒りを込めた拳がジドーラを吹き飛ばした。
※※※※※
まさに乱暴の一部始終。
未遂とはいえ、その恐怖は計り知れない。
自身を抱きしめ、目に涙を浮かべるミリー。
そっとロローニは、優しく彼女を抱きしめた。
「ロローニ様、ああ、恐かった、うああ、ああああああっっ」
「くっ、なんてひどい……ああ、大丈夫だよ。…可愛いミリー」
香る女の匂い。
触れる感触。
この時すでにロローニは。
ミリーにとって都合の良い“道具”に成り下がっていた。
そもそも警ら中のロローニが、ここにいる事実。
すでに破綻している内容と異常な状況。
しかし。
あるスキルによってもたらされた事実。
それは。
――誰にも想像がつかない。
一瞬ニヤリと顔を歪めるミリー。
闇は静かに。
確実に進行していた。
※※※※※
今回の暴行未遂事件。
意外な場所に影響を及ぼすこととなる。
連行されたジドーラのあり得ない証言。
そしてなぜか牢の中で自害。
王宮の騎士詰め所は混乱に包まれた。
ありえない証言。
――それは。
『ドレスト侯爵家』のシナリオ。
つまりジドーラは、侯爵の策略により娘を襲った。
そう吐き捨てていた。
事実は実に単純。
執念深い、ミリーの復讐と策略。
だがそれは誰の想像にも上らない。
なぜなら――
※※※※※
不可解な事件。
ここ2年ほど集中して起こるそれ。
大体その中心にはいつも特定の人物、ミリーがいた。
当初疑いの目は、当然のように男爵家のミリーへと向いた。
しかしあまりにも直接的なダメージを本人が受けているため、状況的に自作自演にもかかわらず。
誰もそこに触れることができない。
仮に自作自演だとしても。
普通は自らの命や安全を確保するのが普通だ。
巧妙に隠されたとしても、状況証拠などで解明される。
ミリーが恐ろしいのは。
目的のため“自分の安全を考慮しない”点にあった。
自分のために行っているはずなのに。
最悪自分が死んでもいいと思って行動する。
まさに異常な精神。
彼女はもうすでに。
――狂っていた。
恐ろしいまでに自己中心的で考えが足りない。
しかしすべてを命がけで行う。
その上で実は――“どうでも良い”と考えている。
まともな神経と理知的な思考では、彼女の狂気を掴むことができなかった。
※※※※※
彼女は地球である男性に恋をする。
そしてその相手は。
――自分以外を選んだ。
そしてその行動は常軌を逸する。
殺害と自殺。
明らかに倫理を超える暴虐。
彼女は恐ろしいまでに純粋に一つの事を信じ続けていた。
『運命』
だからどんなことが起ころうと。
誰が死のうと、世界が滅ぼうと。
結局最後には結ばれる。
なんの疑いもなく信じていた。
ゆえに。
――彼女に恐いものはない。
そして今から彼女が行うこと。
運命の相手を見つけるための最善手。
ありとあらゆる男性を惑わすための準備に過ぎなかった。
彼女の有するスキルは幻術に特化した精神魔法。
そして称号【惑わすもの】を所有。
女性の地球での名前。
高木絵美里
舞奈と俊則を引き裂いた元凶だった。




