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第1話 第一部の終わりと第二部の始まり

和やかな雰囲気の卒業パーティー会場。

オーケストラの演奏が優雅に鳴り響く。


「っ!?あう!?」


突然――女性の悲鳴でかき消された。


会場に広がるざわめき。

男性の怒号が、不協和音のようにかき乱す。



(っ!?…いよいよね…)



凍り付く空気。

会場を覆い尽くす緊張に、誰かのつばを飲み込む音がやけに響く。


私は。

この何度も経験してきた状況に、辟易しながらも覚悟をたぎらせた。


物語ではモブ。

だけど。


(…私は全部知ってるの――さあ、ひっくり返すわよ)


数名の足音。

宣言。


――静寂を切り裂いた。



「貴様のような愚かな女の顔など見たくもないわ!今をもって婚約を破棄する」



※※※※※



ルイラート王国、ガルド王宮。

きらびやかな舞踏会場は一瞬にして断罪の場へとその様相を変えていた。


今日は王立学園の卒業パーティーの日。

いわゆる『ゲームの終盤』



――最後の“イベント”が発生していた。



※※※※※



多くの紳士淑女の注目が集まる会場の中央――

第2王子カイザー殿下が婚約者エリス嬢を自分の前に引きずり出した。


そして。

婚約破棄宣言。


突き飛ばされ、床に倒れ込む彼女。

勝ち誇った殿下の顔。

そして意気揚々と告げられる、ありもしない冤罪の数々。


(…はあ。…やっぱり“シナリオの強制力”は半端ないわね)


私はそんなことを思いながら。

目に涙を浮かべ、打ちひしがれるエリス嬢に視線を向けていた。



※※※※※



このゲームの攻略対象者筆頭、第2王子カイザー殿下。

はっきり言って攻略難易度は激アマ、入門編。


優秀な第一王子のアレス殿下が次期国王にほぼ内定。

出来の悪い第二王子。


――そういう設定だ。


劣等感の中、聖女ミリーに“絆される”というベタなシナリオだ。


確かに顔は美しい。

何もできない愚かな男をいいように調教出来るとかなんとか…


(…コメント湧いてたよね…はあ)


――私は御遠慮願いたい。


剣術もからっきし。

そして、その“柔らかい手”が人気らしい。


おい、お前ら正気か?触れないんだぞ?


ますます意味が分からない。



つい現実逃避をし、遠い目をしていた私は。


動き出す現実に意識を切り替えた。



※※※※※



どよめきが湧く舞踏会場。

なぜか勝ち誇り、侮蔑の表情を浮かべる殿下。


そして。

さも当然のようにその横には。


ミリー男爵令嬢が勝ち誇った顔で立っていた。


殿下の瞳の色である派手な青色のドレスを身に纏い。

にやけ顔でエリス嬢を見下ろす。


“聖属性に目覚めた可哀相な少女”だ。


「カイザーさま♡わたし怖いですう。きゃっ、睨まれました~♡」


わざとらしくカイザー殿下に抱き着き、無駄にデカい胸を押し付ける。

普通なら不敬罪で首を刎ねられても文句の言えない狼藉。


しかし。


ここは残念ながらご都合主義がまかり通る“乙女ゲーム”の世界。

誰もそのことを指摘すらしない。


私はミリー嬢に何気なく視線を向ける。


実際に見たのは初めてだけど。

ゲームでは“嫌”というほど見てきた女の子だ。


(おかしい…)


やはり違和感を覚える。


(コイツ…もっと上品だったはず…)



「わ、わたくしは何もしておりません。どうして信じていただけないのです」


ポロポロと涙を流しながらも気丈に訴えるエリス嬢。



(……っ!?…フラグが立ったね)


私は冷めた目で、この茶番を見つめていた。


(エリス嬢、もうちょっと頑張ってね)



※※※※※



(…ホントに“阿呆”だな王子は)


改めて私は思う。


あれか?

奇麗で礼儀正しく何でも持っている完璧淑女のエリス嬢。


――嫉妬なのか?


ふう……


私にはこのゲームにハマる奴らの気が知れない。



そして現場は動き続ける。

エリス嬢を取り押さえるように何故か出てくる3人。


宰相の長男アントニオ

第一騎士団長の次男ロローニ

魔法庁長官の長男エスベリオ


いわゆる『3馬鹿トリオ』だ。


着々と進行していくシナリオ。

私はそれを確認しながらも思考を練る。



まあ客観的に見ればこの3人も美形だ。

私もこの世界に来る前は、画面越しにキャーキャー言いながらプレイした記憶がある。


でもね。

あくまでゲームで創作だからいいんだよ。


現実なら。

――こんな奴等は牢屋にぶち込んだ方が世の中の為だ。


私は知っている。

コイツらは冤罪を作るため…酷い事を。

何人もの罪なき女性が泣いているんだ。


マジで吐き気すら覚える。



「ふん、お前がミリーに嫌がらせをした事はすでに証拠もそろっているのだ。ああ、可哀そうなミリー、こんなに怯えて。大丈夫だ。私がお前を一生守ってみせるからな」


「ああ、カイザー様♡お慕い申しております♡」


抱き合う二人。

そして沸く拍手。


キラキラとまるでエフェクトが発生し、会場はほんのりピンクに包まれる。



シナリオは最終段階へと突入していった。



※※※※※



――確か。


これで“第一部”は終了するんだよね。

ゲームだとエンドロールが流れ、スチルとともに回収率が表示される。


今回の結末は正統派の“王子様篭絡ルート”だろう。


私はこのゲーム、完全攻略を果たしている。

間違いはないはずだ。


ああ、別にハマっていたわけではないよ?

購入した以上はやりつくす――当然の義務だ。


そして胸糞悪い、何故か18禁になった第二部。

ドロドロした関係の物語が展開していくんだよね。


酔った勢いで購入してしまったので“義務感”でコンプリートしたけどさ。


今思い出しても腹が立つ。

私は開発陣や運営に怒鳴り込みたい気持ちを、ぐっと我慢していたことを思い出した。



イベントに触れたことで私は再度“転生してしまった事”を実感する。

この下らない『愛の狩人~美しすぎる男たち~』とかいう乙女ゲームの世界に。


今の私は念入りに磨かれた美しい美少女、ロナリアだ。


中身は38歳のおばさん、んんっ、コホン。

……ぎり『お姉さん』だけど。


ゲームでは初期イベントの『クラス対抗のダンジョン探索』で、ちらっと名前が出ただけのモブなんだけど。

自分で言うのもちょっとアレだけど、めっちゃ可愛いのよね。


まあこのゲームの売り『登場人物すべて美形♡マルチエンディングシステム』だからかもだけど。


転生直後に姿見を確認して、ピチピチすぎで驚いた。


現実世界の私は……



ああ、やめやめ。

今を生きるのよ私!



私は頭を振り、エフェクトが消えていくことを確認し意識を切り替えた。



※※※※※



(そろそろね……)


私は連れて来た侍女のルルをちらりと見やる。

ルルは頷いて、エスコートしてくれたレイナルドお兄様のもとへ歩いて行った。


エリス嬢は、第二部では意味も分からず娼館に売られていた。


(……まさかこんな“カラクリ”があったとはね)


ゲームならまだしも、一応これ現実だ。

エリス嬢は優秀だし、父である侯爵様に溺愛されていた。


普通ならちゃんと調べて、頭の悪い王子の企みなんてすぐ裏が取れて。

無罪放免、めでたしめでたしのはずなのにね。


あっ、憲兵に連行されていく。

その後を追うようにお兄様も動いてくれた。


シナリオでは悲観したエリス嬢は舌を嚙み切って自害して、死んだと勘違いされ森に捨てられて、野党に襲われる。


結果、売られてしまう。


――実際はもっと悪辣だ。

先ほど庭で見たあの檻。


無理やりそこに閉じ込め、大勢での乱暴。


私はハラワタが煮えくり返ってきた。


確かに転生前はゲームだからって思考放棄していた。

ただ奇麗なスチル見て喜んでいた私だけれども。

普通にあり得ない設定におかしいよねって思っていたはずだ。


私にこのゲームを薦めた加奈子にも文句言ったもん。


『なによ、いいじゃん。ゲームだよゲーム。そんなんだからあんた『重い』って言われるんじゃん』


ああ。

改めてムカついて来たよ。


よし分かった。


転生したときにグダグダ言い訳していた神様も言っていたよね。


『好きにしていい。人を殺さない範囲で』って。


開発陣もクソなら登場人物もクソなこの世界。

無理やりもらった『鑑定』のスキルで、わたしがこの世界のフラグを叩き折ってやる。


エリス嬢が可哀そうだけど。

ここまでの流れはもう変えられないんだ。


だからもう“第一部”はしょうがない。

残念ながら戻る能力はもらえなかった。


私が見たところこの世界はかなり法律があいまいだ。

特に異性交遊関係とかね。


実際私はまだ転生して日が浅い。

神様の言う通り、きっともうここで生きていくしかないのだろう。


日本での私はあの“事件”が尾を引いて自分に制限をしていた。

そして……幸せではなかった。


「あははっ」


私は思わず笑ってしまう。

そうだね、せっかくゲームの世界に転生したんだ。


頭にウジがわいた奴らが作ったようなご都合主義満載な緩い世界の皆さま方。

現実社会の荒波で揉まれた社畜の力、見せてあげる。


手始めにエリス嬢は助けてみせる。

手はしっかりと打たせてもらった。


(ふん、あんたの思い通りにはさせないわよ)


高坂舞奈、いや転生したロナリア・ウッドストック伯爵令嬢はミリー嬢を睨み付ける。



(想いが重い?上等!…それを含めて鑑定士の力、思い知るがいいさ!)


一人拳を握りしめ再度決意を新たにしていた。


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