5.なにやってんだ叔父(二度目)【後編】
一区切りついたところで、俺はこわごわ切り出した。
「すみません」
「ああん?」
「ちょっと、お願いがありまして。」
「なんだあ」
「このダンジョン?を元の部屋に戻してもらうことってできませんか。」
猫は腕組をして考え込んだ。
「それあ、できねえ相談だ。」
猫の話を要約すると、こうである。
むかしむかし、俺らの世界とは異なるもう一つの世界(なんでも、世界というものは、隣り合って複数存在しているらしい)で、尾を引いた星(彗星のことだと思われる)が現れた。
赤黒く、大変禍々しい気を放つ星であった。
その星が、地上に墜ちたのである。
そして、この墜落星、大変迷惑なことに「魔物」と呼ばれる存在を発生させたのである。
「魔物」はキジトラ猫の属する(もっとも、そのころ彼はまだ生まれていなかった)世界を荒らしまくった。
そこで、強くてすごい力を持ったお偉いさんが、墜落星と魔物たちを地下に封じ込めた。
それがこのダンジョンである。
なぜ、この古道具屋とダンジョンが繋がったのか。
「そりゃ、秀臣のせいだな。」
猫はバッサリ切り捨てた。
薄々そんな気がしていた。話に聞く叔父の言動が、そうなんじゃないかと与えてくる示唆を、俺はこれまで全無視していた。
だって信じたくなかったから。
しかし、ここまでハッキリと提示されてしまったからには、見ないふりを貫くことはもうできない。
「実はなあ、お前さん方ニンゲンは、こっちの世界に住むワシらと体の造りが違うのヨ。お前らは肉や野菜を中心に食うだろ?ワシらは魔素を吸って生きとるんじゃ。」
魔素、というのはあっちの世界の太陽が発する、エネルギーみたいなものである。
「だからなあ、お前さん方はこっちの世界の生き物よりも力が強い。それに、魔物の攻撃は魔素でできたワシらの体には通っても、お前らの体には通らんのだよ。」
そこで、あるお偉いさんは考えた。
ニンゲンは自分達よりも力が強く、しかも魔物の攻撃は無効である。つまり、ニンゲンは魔物に対抗するための最高の兵器ではないか。
俺ら。ニンゲンを雇い、ニンゲンに、ダンジョンを攻略させれば良いのではないかと。
誘拐などの手段に出ることができなかったのは、あちらの世界の主な闘い方は空気中に満ちている魔素を利用するものであるため、こちらの世界では全く通用しないためである。
よかった、こっちの太陽が発しているのが光線だけで。
「ワシはなあ…。攻略できそうな人間を探す担当。今風だと、うーん、りくとーる担当だったのだ。」
リクルート、な。慣れない単語使って恥かくよりは、使わないほうがいいのではなかろうか。
まあでもこれは個人の意見か。
「そして、ちょうど旅先で有金全部ぼったくられた秀臣に出会い、ダンジョンを攻略するなら、その状況から助けたうえ衣食住までも保証するという契約を取ったのだ。」
何をやっているのだ、叔父。
そんな怪しげな契約ほいほいするな。
ていうか、何で有金全部ぼったくられてるのだ。
「しかし、秀臣がいなくなってしまったら、どうすればいいのかのう。」
交差する視線。
キジトラはものすごい勢いで俺の肩に飛び乗り、頭をガシッとホールドした。
「なあ」
「いやです」
「まだ何も言ってない」
「やりません」
「ダンジョンを攻略」
「いやだ」
「ダンジョンを攻」
「やらねえっつってんだろ!!」
「お願いしますお願いです一生の御願いだからダンジョンを攻略してくださいやっとと取れた契約だったんですいい加減上もイライラしてきてるんでそろそろ攻略してもらわないとクビになっちゃうんですお願いしますお願いしますよう」
これが30分続いたので、とうとう俺は根負けした。
「へっへっへ。一生ついて行きやすぜ、兄貴。」
…なんか態度変わりすぎじゃないか?




