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「……ありがとう」

そう言われた時の顔が、ずっと頭に残ってる。


強い人だと思ってる。

ちゃんとしてて、ちゃんと立ってて、簡単に崩れない人。


でも。


ああいう顔もするんだな、って思った。


主任。

多分、想像してるよりずっと大変だ。


それでも「大丈夫」って言える人だから、


じゃあ俺が余裕でいないといけない。

自然にそう思った。


「その時は、俺が支えます」


できると思ってた。


できるつもりだった。





5月。


「後輩つくから、よろしくな」


そう言われて

ああ、来たか、って思った。


「橘さん、よろしくお願いします!」


ちょっと緊張してる元気な後輩。


「よろしく」


教えるのは問題ない。

何をどうすればいいか、ちゃんと分かる。


説明もできるし、ミスも見える。


「それはこうした方がいいよ」

「ここ気をつけて」


順調。


普通に、いける。


……と思ってた。


「橘さん、これで合ってますか?」


「見ますね」


止まる。


戻る。


「すみません、もう一回いいですか」


「いいよ」


また止まる。


自分の画面を見る。


……進んでない。


「橘、こっち頼める?」


「あ、はい」


全部できる。


対応もできる。


でも。


余裕が、残らない。


一個一個は大したことないのに

気づいたら、ずっと誰かに呼ばれてる。





夕方。


「ありがとうございました!」


後輩に頭を下げられる。


「いや全然」


……いや、全然じゃない。


普通に、余裕ない。


帰り道。


ふと、思い出す。


ソファで、少しだけ力抜いてた遥花の顔。


「無理そうだったら?」


って聞いた声。


「その時は、俺が支えます」


って、自分で言った言葉。


立ち止まる。


……これ。


今の俺、無理じゃないか?


自分のことで、いっぱいいっぱいになりそうだ。





「おかえり」


遥花の声。


「ただいま」


隣に座る。


距離は、いつもと同じ。


「今日どうだった?」


その一言に、

一瞬だけ言葉に詰まる。


自分が余裕ないことより、

この人の余裕も、ちゃんと持ててないかもしれないことの方が引っかかる。


「……なんか」


ぽろっと出る。


「思ってたより、余裕なくなりそうです」


少しだけ、こっちを見る。


「仕事?」


「仕事もなんですけど」


少し間をあけて、


「……遥花さんの分まで余裕持つつもりだったんで」


言ってから、少し笑う。


「無理そうです」


ちゃんと、言えた。

前だったら、多分言ってない。


少しだけ沈黙。


「そっか」


それから、


少しだけ体を寄せてくる。


「じゃあさ」


隣で、そのまま言う。


「半分ずつにしよ」


「え」


「私もそんな余裕ないし」


さらっと言う。


でも、それが一番しっくりくる。


「一人で持たなくていいよ」


少しだけこっちを見る。


「2人でなんとかすればいいじゃん」


その言い方に、


変な力が抜ける。


「……そう、ですね」


思わず笑う。


「でしょ」


さっきまでの「やばい」が、

少しだけ変わる。


なくなったわけじゃない。


でも、


一人で抱えるものじゃなくなった。


「俺が支える」って言った日から、


少しだけ変わった。


支えるのは、俺一人じゃなくていいらしい。




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