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金曜の夜から、何も変わっていない。

朝は来るし、仕事は山積みだ。

会議もあるし、締切もある。

私はちゃんと大人の時間の中にいる。


それなのに。


駅前のあの一瞬が、ふと浮かぶ。


「関係あります。」


落ち着いた声。

若いからこそ、あの静けさは危ない。


昼休み、スマホを開く。

湊から連絡はない。


急かす言葉も、甘い言葉もない。

——急がせない。


それが余計に考えさせる。


もし軽かったら、

もし押してきたら、

もっと簡単に切れた。


でもあの人は待つ。

待てると言う。


それが重い。


学生の時間は、まだ広い。

失敗も、寄り道も、やり直しもある。


でも私の時間は、もう選び続ける時間だ。


仕事を選ぶ。

生活を選ぶ。

将来を選ぶ。


その中に、誰かを入れるということは、

「好き」だけでは足りない。

同じ景色を見て、同じ責任を背負ってほしい。


飲み会帰りに偶然会える時間と、

朝の満員電車で消耗する時間は違う。


それでも。


あのとき安心した。

それがいちばん厄介だ。





夜。

悠の向かいに私は座る。


「湊、連絡してこないね。」


悠は少しだけ笑う。


「言われたんだろ。急がせないって。」


私はうなずく。


「それが、余計に考える。」


悠は何も言わない。

私は続ける。


「学生の時間と、私の時間は違う。

今は隣に立てても、その先は?」


問いかけというより、独り言だ。

悠は静かに返す。


「それを決めるのは、お前だ。」


背中は押さない。

止めもしない。


私は深く息を吸う。

安心したからこそ、怖い。


優しいからこそ、重い。

急がせてこないからこそ、選ばなきゃいけない。


境界線は、年齢じゃない。

時間だ。

私はその線を、まだ越えられない。




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