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「さて、後片付けしようかしらね」
「手伝います」
キッチンに並んで立つ。
食器を水に浸す音だけがやけに大きい。
「……緊張してる?」
不意に聞かれて、思わず手が止まる。
「少しだけ、してます」
正直に言うと、湊の母はふっと小さく笑った。
「うちの息子、めんどくさいでしょう」
「真面目で、不器用で、でもちゃんと考えてくれてます。」
一瞬、湊の母の手が止まる。
横顔が少し柔らいだ。
「……あの子、あなたに甘えてませんか」
遥花は、少しだけ考えてから首を振る。
「甘えてくれたら嬉しいです。
今はまだ、強がってばかりなので」
「そう」
水を流す音。
「心配はしてるのよ。
年上だから、とかじゃなくて。
あの子、自分を削るでしょう」
その言葉に、遥花の胸が少しだけきゅっとなる。
見抜いている。
「でも」
母が続ける。
「今日の顔見てたら、大丈夫だと思ったの」
遥花は思わず顔を上げる。
「安心してる顔してたわ」
静かに、でも確かに。
「湊を、ちゃんと見てくれる人なんだなって」
遥花は一瞬、何も言えなくなる。
そして、小さく頭を下げる。
「……ご挨拶が遅れて、申し訳ありませんでした」
「いいのよ。今こうして来てくれたんだから」
母は食器を拭きながら、淡々と言う。
「急がなくていい。でも、曖昧にはしないでね」
それは優しさでもあり、母としての線引きでもあった。
遥花はまっすぐ頷く。
「はい」
キッチンの向こうで、湊の足音がする。
「何話してたん?」
母は振り返らずに言う。
「内緒」
遥花も、少しだけ笑う。
その笑顔を見て、湊がほんの少しだけ安心した顔をする。




