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ダイニングテーブルに
きれいにおせちが並ぶ。
黒豆、伊達巻、数の子。
どれも形が揃っていて、盛り付けまで整っている。
「大したものじゃないのよ」
湊のお母さんがそう言うけれど
手が込んでいるのは一目で分かる。
「いえ、とてもきれいで……すごいです」
自然とそう口にしていた。
隣で湊がいつもより静かに座っている。
「湊、ちゃんと取り分けなさい」
「はい」
素直すぎる返事に、少しだけ笑いそうになる。
湊が私の皿に伊達巻を乗せる。
その手が、ほんの少し慎重だ。
「遥花さんは、お正月は今までどうされてたの?」
お母さんが箸を止めて聞く。
「実家で過ごしていました」
「ご両親は心配されなかった?」
一瞬だけ、言葉を選ぶ。
「心配は……されたと思います。
でも、私の選択を尊重してくれています」
視線の端で、お父さんがこちらを見る。
試されている感覚。
お父さんが口を開く。
「遥花さんは、仕事を続ける言うとったな」
「はい」
「結婚してもか」
一瞬、箸が止まる。
結婚、という単語。
でも逃げない。
「はい。そのつもりです」
静かに答える。
テーブルの下で、湊の指が私の指に触れる。
強くはない。
でも、離れない。
お父さんは少しだけ視線を落とし
それから湊を見る。
「支えられるんか」
問いは短い。
「はい」
湊くんの声は、迷いなく落ち着いている。
「俺が選んだんで」
聞き慣れた言葉。
でも、ここで言うのは重みが違う。
数秒の沈黙。
それからお父さんが湯のみを持ち上げる。
「なら、ええ」
それだけ。
大きな肯定ではない。
でも、否定もない。
お母さんがほっとしたように笑う。
「冷める前に食べましょう」
空気が少しだけやわらぐ。
湊が、ほんのわずかに息を吐いたのが分かった。




