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年末の空気は、少しだけ柔らかい。


窓の外はもう暗くて

遠くのマンションの灯りが瞬いている。

テレビでは年末特番が流れているけれど、

二人ともちゃんと見ているわけじゃない。


ソファに並んで、湊の肩に頭を預ける。


「今年も、あっという間だったね」


ぽつりと遥花が言う。

湊は少し笑った。


「ですね。春はまだ学生やったのに」


「そうだよ。最初は“年下くん”だったのに」


「まだ年下ですけど」


「うん、でもなんか違う」


肩越しに見上げると、湊は一瞬だけ視線を逸らした。


少し沈黙が落ちる。

テレビの笑い声だけが浮いている。


「……来年も、よろしくね」


何気ない挨拶。

毎年の、ただの言葉。


でも今年は違う。


湊の喉が、小さく鳴る。


「……はい」


短く返事をしてから、指先がわずかに強く絡む。

緊張しているのがわかる。


少しだけ、待つ。

湊は一度深呼吸をして、それからゆっくり口を開いた。


「遥花さん」


「ん?」


「年始、実家帰るんですけど」


そこで一瞬、言葉が止まる。

遥花は心臓が少し跳ねるのを感じる。


湊が、視線を落とす。


「……一緒に、帰りませんか」


空気が静まる。

テレビの音が遠くなる。


遥花の中で、何かがすっと重みを持つ。


「……私も?」


「はい」


湊は目を逸らさない。


「ちゃんと紹介したいんです」


その言い方に、未来が混じっている。

結婚とは言わない。


約束もしない。


でも、“含めている”。


遥花は少しだけ笑った。


「正式な挨拶ではないよね?」


「違います。まだ、そこまでは」


“まだ”。


その言葉に、湊の覚悟が滲む。


「でも、俺の家族に会ってほしいです」


遥花は、胸の奥があたたかくなるのを感じる。


怖くないわけじゃない。

でも、逃げたいとも思わない。


ゆっくりと頷く。


「うん。行く」


湊の肩から、力が抜ける。


「ほんまに?」


「うん。来年もよろしくって言ったでしょ?」


そう言うと、湊は少し照れたように笑った。


「……じゃあ、来年はちゃんと“家族ぐるみ”ですね」


「もう十分ぐるみだと思うけど」


「うちのは、ちょっと堅いですよ」


「心配されてたんでしょ?」


湊は苦笑する。


「はい。めちゃくちゃ」


「でも反対はされてないんだよね?」


「……はい」


その“はい”には、自信がある。


遥花はその横顔を見て、思う。

ああ、この人はもう、ちゃんと大人だ。


ソファの上で、指を絡め直す。


「来年も、よろしくね」


「……よろしくお願いします」


年越しのカウントダウンが始まる。


数字が減っていく。


ゼロになった瞬間、湊の手が少しだけ強く握られた。


新しい年。


また少しだけ、未来が近づいた気がした。




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