7
金曜の夜。
思ったより飲み会が長引いたけれど
駅前はまだ人が多い。
私は少しだけ酔っていた。
「ねえ。」
背後から知らない声。
距離が近い。
「一人?このあとどう?」
無視をしていると歩幅を合わせてくる。
「ちょっとだけでもさ。」
距離が詰まる。
そのとき。
「遥花さん?」
低い声。
振り向くと、湊だった。
「知り合いですか。」
静かに聞く。
「関係ないだろ。」
湊は一歩前に出て、私と男の間に立つ。
「彼氏なんで、関係ありますね。」
低く、はっきり。
怒鳴らない。
でも動かない。
男は舌打ちして、人混みに紛れて消える。
私はやっと息を吐く。
「……ありがとう。」
湊は振り返る。
「大丈夫ですか。」
いつもの声。
「うん。」
少し歩く。
距離はちゃんとある。
「今帰り?」
「バイト帰りです。」
「遅いね。」
「金曜なんで。」
それだけ。
私はふと見る。
少しだけ疲れている顔。
「たまたま?」
「たまたまです。
でも、よかった。」
静かに言う。
押しつけない。
助けたことを誇らない。
ただ事実としてそこにいる。
私は歩きながら思う。
さっきの嘘も私を守るためだけの嘘だった。
「彼氏って言ったね。」
小さく言う。
湊は前を向いたまま答える。
「なりたいんで。
決めるんは遥花さんやけど。」
その言い方が、静かに重い。
「急がせないんで、ゆっくりでいいです。」
境界線はまだある。
でも今夜、私は初めて思った。
この人の隣は、安心する。




