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仕事帰りのコンビニ。
何気なく日付を見る。
12月。
……あれ。
一瞬、止まる。
「あ。」
レジの人に怪訝な顔される。
「……どうしました?」
「いえ。」
いや、どうもしてない。
してないけど。
今日。
付き合って、ちょうど2年。
去年はイルミネーション見ながら
「過ぎてるじゃん」って笑った。
今年は。
普通に仕事して、
普通に買い物して、
普通に帰る。
「……当たり前になりすぎ。」
嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
でも。
ちょっとだけ、寂しい。
湊はまだ帰ってない。
スマホを見る。
特に何も。
メッセージも普通。
“今日遅くなります”
それだけ。
「……忘れてるな。」
去年と同じ。
なのに。
今年はなぜか、胸が少しちくっとする。
成長してる。
積んでる。
未来も見えてきた。
だからこそ。
少しくらい、特別扱いしてほしかった。
そんな自分が、ちょっと子どもみたいで嫌になる。
「ただいま。」
いつも通り。
コート脱いで、ネクタイ緩めて、
何事もない顔。
ああ、忘れてるな。
私はソファから顔を上げる。
「おかえり。」
「寒いですね今日。」
完全に普通。
少しだけ意地悪をする。
「ねえ。」
「はい?」
「今日なんの日か知ってる?」
湊、止まる。
ほんの一瞬だけ。
でも、目が泳がない。
「……。」
考えてる顔。
あ、これ本当に忘れてる?
少しだけ胸がしゅんとする。
「わかんない?」
わざとらしく聞く。
湊が、ゆっくりコートのポケットに手を入れる。
「わかってますよ。」
え。
次の瞬間。
小さな花束。
本当に小さい。
「今日。」
湊が少し照れながら言う。
「遥花さんが好きって言ってくれた日です。」
心臓止まる。
「……え?」
「2年前の今日。」
視線が柔らかい。
「俺が必死だった日じゃなくて。」
小さく笑う。
「遥花さんが、俺を選んでくれた日。」
胸が熱い。
言葉が出ない。
去年はイルミネーション見ながら、
思い出して笑った。
今年は。
覚えてた。
「……それ、ずるい。」
やっと声が出る。
「記念日じゃないじゃん。」
「俺にとっては記念日です。」
即答。
小さな花束を差し出す。
「大きいのはまだ早いんで。」
なにそれ。
「忘れてる顔してたのは?」
「演出です。」
少しだけ悪い顔。
「遥花さんが寂しそうだったんで。」
ばれてる。
全部。
花束を受け取る。
香りが、冬の部屋に広がる。
「……ばか。」
涙がにじむ。
「去年より重い。」
ぽつっと出る。
湊が少し首を傾げる。
「何がですか。」
「全部。」
当たり前が増えた。
未来の話もした。
妊娠疑惑もあった。
2年は、ちゃんと積み上がってる。
湊がそっと近づく。
「来年は。」
静かに言う。
「もっと大きい花にします。」
「高いやつだ。」
「積んでるんで。」
ああもう。
この人は。
「ねえ。」
「はい。」
「ありがとう。」
湊が少し目を細める。
「選んでくれて、ありがとうございます。」
空気がやわらかい。
派手じゃない。
でも。
去年より、確実に深い。




