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朝の会議後、名前を呼ばれ

封筒を渡される。


「1年目にしては、よくやってる。」


上司の一言。

褒められてるのに、素直に喜べない。


“1年目にしては”。

まだその枠。


席に戻って封筒を見つめる。


開けない。


昼休みまで我慢する。


一人になってから、静かに中を見る。


大きくはない。

正直、想像より少ない。


でも。


「……俺のか。」


その事実だけで、胸が少し熱くなる。


帰り道。


駅前のショーウィンドウ。


指輪。


一瞬、目が止まる。


すぐ逸らす。


まだ早い。


でも。


頭のどこかで、現実になる。


ATMに寄る。


振込。


残高表示。


通帳の数字はまだ頼りない。


でも今日、初めて


“自分で増やせる”って感覚がある。


そのまま、銀行アプリで口座をひとつ開く。


名前はつけない。


でも用途は決まってる。





「ただいま。」


キッチンから湯気。


遥花が味噌汁よそってる。


この光景が、急に重くなる。


守りたいとかじゃなくて、

並びたい。


「今日、ボーナス出ました。」


「おー。」


軽い。

期待してない声。


「どうだった?」


「……想像より少なかったです。」


正直に言う。


「でも。」


湊は少し息を整える。


「初めて、自分で稼いだって感じしました。」


遥花が振り向く。


「うん。」


それだけ。


否定しない。


茶化さない。


「ちょっとだけ、分けときました。」


「何に?」


「将来用。」


沈黙。


でも気まずくない。


遥花は笑う。


「積み立て男子か。」


「積みます。」


軽く言う。


でも本気。


その夜。

布団の中で、スマホを見る。


残高。


まだ小さい。


でも。


今日から増えていく。


焦らない。


でも止まらない。


「遥花さん。」


暗闇で呼ぶ。


「ん?」


「間に合いますかね。」


ぽつり。


弱音。


遥花は目を開けないまま言う。


「間に合うかじゃないでしょ。」


「はい?」


「間に合わせるんでしょ?」


静か。


でも確信。


湊は天井を見る。


笑う。


「……はい。」


この人は、いつも先に知ってる。


俺がどうなりたいか。


ボーナスは少なかった。


でも。


今日、またひとつ積んだ。


金額じゃない。


覚悟を。




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