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「じゃあ、買いに行きましょう。」


さらっと言われて、足が止まる。


「今?」


「今。」


「いや、ちょ、心の準備が。」


「遅らせても結果は変わらないです。」


正論すぎて何も言えない。


ドラッグストアの自動ドアが開く。

冷房の風が妙に現実的。


棚の前。

手を伸ばしかけて、止まる。


「……高い。」


どうでもいいことが口をつく。


湊が横に立つ。


「俺が出します。」


「いや、別に。」


「共同出資でもいいです。」


こんなときに真面目か。

思わず笑う。


それで少しだけ、肩の力が抜ける。


箱をカゴに入れる。


レジまでの道のりが、やたら長い。

誰も見てないのに、見られてる気がする。


支払いは、結局半分ずつ。


夕方の空気がぬるい。


袋を持ったまま、歩き出す。


変な沈黙。

でも、嫌な沈黙じゃない。


「怖いですか?」


湊が聞く。


「ちょっと。」


正直に言う。


「でも。」


歩きながら、ふと口に出る。


「さっきの、ちょっと嬉しかった。」


湊が止まる。


「どれですか。」


「産んでほしいってやつ。」


あの一言。

ただ、まっすぐだった。


湊は視線を逸らす。


珍しく、照れてる。


「本音です。」


小さく。


「まだ早いとか、現実的じゃないとか

わかってます。でも。」


足を止める。


「もしそうなら、俺は逃げません。」


その言葉が、静かに胸に落ちる。


逃げない。


それだけで、こんなに安心するなんて。





家に着く。

靴を脱いで、リビングへ。


検査薬の箱をテーブルに置く。


「……今やる?」


自分で言って、自分が固まる。

湊は少し考えて、


「遥花さんが決めてください。」


またそれ。


「一緒にいます。」


その一言で、少しだけ怖さが薄れる。


箱を開ける。

説明書を読むふりして、全然頭に入らない。


「時間、何分?」


「書いてあります。」


「だから何分。」


「三分。」


やたら長い。


検査を終えて、洗面所に置く。


扉を閉める。


リビングに戻る。


沈黙。


テレビはつけない。


湊が隣に座る。


手が、そっと重なる。


強く握らない。


でも、離れない。


三分が永遠みたい。


心臓の音がうるさい。


湊も、たぶん静かじゃない。


「……見に行きますか。」


小さな声。


うなずく。


二人で立ち上がる。


洗面所のドアノブに手をかけて、


一瞬だけ、息が止まる。


まだ、何もわからない。


でも。


この扉の向こうに、


未来がひとつ、転がっている気がした。




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