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結局、何もせずに数日。
ドラッグストアの前で立ち止まって、やめる。
「まだ早いし。」
自分に言い訳する。
ただ遅れてるだけかもしれない。
仕事忙しかったし、最近暑いし、寝不足だし。
理由なんていくらでもある。
——ある、はず。
でも。
数日経っても、来ない。
朝起きて、まずカレンダーを見るのが日課になる。
「……まだか。」
体調は微妙。
吐き気ってほどじゃない。
でも、なんか違う。
湊は気づいてる。
「最近眠そうですね。」
「夏バテ。」
即答。
「ちゃんと食べてます?」
「食べてる。」
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
夜、ソファに座りながら、ふと自分のお腹を見る。
まだ何も変わってない。
当たり前なのに。
手を置きたくなる。
「……やば。」
まだ確定してないのに。
心が勝手に“未来”を想像する。
湊が抱っこしてる姿。
泣きそうになって、首振る。
「気が早いって。」
週末、スーパーからの帰り。
湊が袋持ってくれてる。
いつも通り。
「卵安かったですよ。」
「ほんと?」
「あと牛乳。」
その何気ない会話の途中。
ふと、口が勝手に動く。
「もしさ。」
言ってから、止まる。
湊がこっち見る。
「はい?」
「いや、なんでも——」
「なんですか。」
逃げられない声。
「……もし、できてたらどうする?」
言ってしまった。
あ、固まった。
やっぱり。
でも。
次の瞬間。
深く息を吸う。
「できてたら、って?」
「その……ほら。」
視線逸らす。
湊が数秒考える。
真面目な顔。
ふざけない。
「産みたいですか?」
思わず笑いそうになる。
やっぱり。
「質問で返すな。」
「大事なんで。」
目、まっすぐ。
「遥花さんがどうしたいかが先です。」
胸がぎゅっとなる。
「……まだわかんないよ。」
正直に言う。
「ただ遅れてるだけかもしれないし。」
湊はうなずく。
「遥花さんの気持ちが一番大事です。」
「でも。」
視線が逸れない。
逃げない目。
「もしできてたら、俺は産んで欲しいです。」
心臓が一瞬、跳ねる。
軽い話のつもりだったのに。
急に、重みが出る。
「……即答なんだ。」
「はい。」
「怖くないの?」
聞いてから、少し意地悪だったかもと思う。
湊は少し考える。
「怖いです。」
「でも。」
指先がそっと触れる。
「それより、守りたい気持ちの方が大きいです。」
「遥花さんが不安だと、俺も不安になります。でも。」
少しだけ、息が揺れる。
「一人で抱えさせるつもりはないです。」
胸の奥がじわっと熱くなる。
まだ何も確定してない。
ただの“もし”。
なのに。
未来の形が、はっきり輪郭を持つ。
「……ばか。」
声が小さくなる。
「まだ検査もしてないのに。」
「だからです。」
「今のうちに言っておきます。」
そのまっすぐさに、少し笑ってしまう。
怖い。
でも。
怖いだけじゃない。
もし本当だったら。
この人となら。
そう思ってしまう自分が、いちばんびっくりだった。




