70
朝、キッチンでコーヒーを淹れながら
ふとカレンダーを見る。
……あれ?
指を折る。
「え、うそ。」
もう一回数える。
「いやいや、まさか。」
たしかに最近だるかった。
眠いし、ちょっと気持ち悪い日もあった。
でもそれは普通に、
暑いし。
仕事忙しいし。
冷房でやられてるし。
「……夏バテ、だよね。」
そう言い聞かせる。
けど。
頭の片隅に、ぽつんと浮かぶ。
“もし”
いやいやいや。
ないない。
だって。
ちゃんと、してるし。
いや、でも。
完全じゃないし。
「ちょ、やだ。」
一人で赤くなる。
仕事中も、ふと考えてしまう。
お腹、さすったりして。
「いや、何してんの私。」
まだ何もわかんないのに。
帰り道。
ドラッグストアの前で立ち止まる。
入る?
いや、まだ早い。
でも。
もし本当だったら。
湊の顔が浮かぶ。
絶対固まる。
いや、固まらないかも。
真顔で
「産みたいですか?」とか聞きそう。
……想像できる。
「どうしよ。」
自分の部屋なのに、落ち着かない。
ソファに座って、膝を抱える。
まだ何も確定してないのに、
心だけが先に進んでいく。
赤ちゃん。
湊。
家族。
……いやいやいや
「落ち着け私。」
ただ遅れてるだけかもしれないし。
ストレスとかあるし。
そうだよ。
仕事忙しかったし。
この前も夜更かししたし。
たぶんそう。
うん、たぶん。
でも。
もし、できてたら。
そのとき。
私、どうするんだろ。
湊は、どうするんだろ。
ふと、スマホを見る。
“今日ちょっと遅くなります。”
湊からのメッセージ。
なんか、急に愛おしい。
「……ばか。」
まだ何も起きてないのに。
なのに、
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
胸があったかい。
そして。
少し、怖い。




