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朝の空気がやわらかい。
違和感は、すぐにわかった。
悠はソファに腰を下ろして二人を見る。
湊は妙に静か。
遥花は妙に機嫌がいい。
この組み合わせ、答えは一つ。
「なあ。」
「空気変わったよな。」
湊が止まる。
遥花が目を逸らす。
ビンゴ。
「……別に。」
湊の声が低い。
「俺に隠すなよ。」
「隠してへん。」
「じゃあ目見て言えよ。」
湊が詰まる。
遥花が横から助け舟。
「悠、やめなって。」
その声が、柔らかい。
悠はそこで小さく息を吐く。
ああ、ちゃんと選ばれたな。
「お前さ。」
少しだけトーンを落とす。
「昨日で何か変わったなら、それは誇っていい。」
湊が顔を上げる。
「……。」
「でもな。」
「調子乗るなよ。」
湊が反射で言い返す。
「乗ってない。」
「顔が乗ってる。」
遥花が吹き出す。
その笑い方。
安心しきってる。
悠は立ち上がる。
「俺は別に口出す気ないけど。」
玄関に向かいながら。
「泣かせたら殴る。」
湊が真顔で返す。
「泣かせてないです。」
遥花が横から。
「泣いたけど。」
湊が固まり、悠は吹き出す。
「お前らほんとわかりやすいな。」
空気が柔らかくなる。
でも悠はちゃんと見てる。
湊の目。
前より、少しだけ強い。
自分の立ち位置を、掴んだ顔。
「……ちゃんと幸せにしろよ。」
湊の目がまっすぐになる。
「当たり前。」
間髪入れず答える。
悠は満足そうに頷く。
少し気まずそうな湊。
昨日のことがふっと蘇る。
近かった距離。
乱れた呼吸。
震えてた指。
怖くなかった。
むしろ。
あんな湊を見られたのが、嬉しかった。
「……なに笑ってるんですか。」
「別に。」
さっきと同じ言葉。
湊が近づいてくる。
距離が近い。
前より自然に。
「俺、変なこと言いました?」
「ううん。」
少し見上げる。
「かっこよかった。」
湊が固まる。
「は?」
「昨日も、さっきも。」
視線を逸らさない。
「ちゃんと男の人だった。」
湊の喉が動く。
照れと、安堵と、少しの自信。
全部混ざった顔。
遥花は思う。
ああ、もう戻れない。
優しいだけの年下じゃない。
守るだけの騎士でもない。
ちゃんと、私の隣に立つ人。
「……悠、うるさかったですね。」
湊がぼそっと言う。
遥花は笑う。
「でも安心してたよ。」
湊が一瞬黙る。
「……あの人には、勝てない気します。」
「悠は悠。湊は湊。」
一歩近づく。
「私の横は湊でしょ。」
湊の目が揺れる。
その揺れが、愛しい。
「……それ、ずるい。」
小さく呟く。
遥花はくすっと笑う。
昨日より、今日の方が距離が近い。
触れなくても、わかる。
もう、揺れてない。




