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空気が張りつめてる。
暗い部屋。
「ただいま。」
返事がない。
「湊?」
「……どこまで行ってたんですか。」
低い。
怒鳴ってるわけじゃない。
でも静かに怒ってる。
「え?」
「迎え行くって言いましたよね。」
通知が並ぶスマホを見せられる。
「あ、充電切れてて…」
「直哉って人、いました?」
直球。
遥花が固まる。
「……いたよ。」
正直に言う。
その瞬間
「俺いなくても、全然平気そうですね。」
壁に追い込まれる距離。
初めて本気の圧。
「俺、可愛いだけですか?」
「俺、若いだけですか。」
声が震えてる。
でもそのまま終わらない。
湊の手が、私の肩を掴む。
強い。
痛いほどじゃない。
でも、いつもより明らかに強い。
「間に合わないなら、最初から言ってくださいよ。」
低く、荒い。
初めて聞くトーン。
「今が欲しいなら、同年代と結婚すればいいじゃないですか。」
息が止まる。
「直哉みたいな。」
言ってから、湊は顔をしかめる。
「俺、若いって言われるたびに、ああそうだなって思うんです。」
掴む手が少し強くなる。
「可愛いねって。若いねって。」
吐き出すように。
「可愛いだけなら、俺いらないですよね。」
目が赤い。
怒ってる。
でも怒りの矛先は、自分。
「こういうとこですよね。」
自嘲気味に笑う。
一歩近づく。
背中が壁に当たる。
逃げ道がなくなる。
「だから若いって言われるんですよね。」
呼吸が荒い。
近い。
「わかってるんです。」
震える。
「八つ当たりだって。」
目が揺れる。
「でも止まらないんです。」
手首を掴まれる。
今度は強い。
指が食い込む。
「俺、めちゃくちゃ不安なんです。」
ついに出る本音。
「今日、既読つかなくて。」
声がかすれる。
「俺、置いていかれたって思いました。」
「直哉と並んでるの想像して。」
苦しそうに笑う。
「俺、勝てるとこあります?」
「若いだけの男が、何で自信持って隣立ってるんだって。」
手が、私の腕を引く。
強く抱き寄せる。
いつもより荒い。
息がぶつかる距離。
「俺、手放したくないです。」
「取られるのも嫌だし、捨てられるのも嫌です。」
「こんなかっこ悪いこと言いたくないのに。」
顔が近づく。
キスしそうで止まる。
理性がまだかろうじて残ってる。
「……こういうとこが若いんですよね。」
自嘲みたいな笑い。
その顔を見た瞬間、涙が出そうになる。
こんなふうに壊れそうになるくらい、
私の隣に立とうとしてくれてたんだ。
かっこ悪いどころか、
今までで一番、男の顔をしてると思った。




