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1人きりのリビングは静かだ。
テレビはついているのに、音が入ってこない。
《今から始まるよー》
その一文で止まっているトーク画面。
グラスの氷が溶ける。
時間だけが進む。
直哉も来るだろうか。
わかっている。
信じている。
でも。
あの時の同級生の
「若いね」
会社で聞いた
“こっちは今なんだよね”
頭の中で繰り返される。
スマホを手に取る。
迷う。
迷ってから、打つ。
《何時ごろ終わりそうですか?》
送信。
既読はつかない。
五分。
十分。
二十分。
“話してるだけだろ”
そう言い聞かせる。
でも想像は止まらない。
隣に座る距離。
肩が触れる距離。
乾杯で近づく顔。
もう一度打つ。
《迎え行きます。》
既読つかない。
喉が乾く。
電話。
コール音すら鳴らない。
電源が入っていないか——
そこで胸が強く鳴る。
何かあったわけじゃない。
充電だ。
たぶん。
でも。
“今なんだよね”
その言葉が刺さる。
もし。
今この瞬間、
遥花が“安定”を見せられたら。
自分は。
並べているのか。
立ち上がる。
玄関まで行く。
戻る。
またスマホを見る。
既読つかない。
時間だけが過ぎる。
理性が少しずつ削れる。




