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付き合って、一年半。

数字にすると、ちゃんと長い。


でも。


社会人一年目の自分と、社会人五年目の遥花さん。

時間の密度が違う。


駅からの帰り道。

ドレス姿の遥花さんが隣を歩いている。


綺麗だった。


本当に。


チャペルで歩く姿を想像してしまった自分に

少しだけ驚いた。


俺の隣で、ああやって歩く日。


現実味は、まだ薄い。


でも。


想像はできる。


「“まだ”って言われるの、ちょっと悔しいです。」


あれは本音だった。

遥花は焦ってない。


それはわかる。


でも。


“まだ”って言葉は、

自分が未完成だと突きつけられたみたいで。


一年半。


何してきた。


好きになって、

支え合って、

同棲して。


順番はちゃんと進んでる。


でも。


将来に向けて、具体的に何かしたか?


ただ、隣にいるだけで満足してた。

それは悪いことじゃない。


でも。


遥花の同級生は、もう次の段階にいる。


「急いだ方がいいですか。」


あれは勢いじゃない。

確認だった。


“待たせてないか”の確認。





「どうしたの。」

ベッドに入ると半分寝てる遥花さんがいる。


「何も。」


言いかけて、やめる。

焦ってる姿を見せるのは違う。


でも。


心の奥で、静かに決める。


追いつく、じゃない。


並ぶ。


ちゃんと。





翌朝、電車の中で銀行アプリを開く。


心許ない残高。


結婚式の金額。

式場。

指輪。

引越し。

将来の子ども。


現実の数字が頭に浮かぶ。


深呼吸。


“急がなくていい”って言われた。


でも。


“考えなくていい”とは言われてない。


積立設定を開いて金額を入れる。


一瞬、迷う。


生活に余裕はあるか?

交際費は?

急な出費は?


でも。


未来は、後回しにしたら永遠に来ない。


確定ボタンを押す。


小さな震え。


毎月、自動で引かれる金額。


逃げられない約束。


画面を閉じる。


これで劇的に何か変わるわけじゃない。


でも。


“まだ”を少しだけ削った。





昼、上司に呼ばれる。


「この案件、次からメインで回してみるか。」


一瞬、固まる。


怖い。


でも。


「やります。」


逃げない。


怖いけど。


責任を持つって、こういうことだ。





帰り道。

不思議と、足取りが重くない。


焦りは消えてない。


でも。


焦りが、怖さじゃなく推進力になってる。


「ただいまです。」


遥花が振り向く。

いつも通り。


「おかえり。」


この人は、俺を信じてる。


だから。


焦りをぶつけない。

不安も押しつけない。


この人を、待たせたくない。


この人の“まだ”を、

俺の未熟さで固定したくない。


ただ、進む。


「遥花さん。」


「ん?」


「俺、“まだ”やけど。」


「止まってはないです。」


遥花が目を細める。


「知ってる。」


それだけで、胸が少し軽くなる。


焦ってる。


でも。


焦りに飲まれてない。


一年半。


途中で終わらせる気はない。


静かな決意が、胸の奥で固まる。




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