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久しぶりに会う同級生たちは
少しだけ大人びて見えた。
大学時代と同じ笑い方なのに、指輪が光っている。
受付で名前を書く。
“〇〇様ご結婚おめでとうございます”
ペンを置いた瞬間、胸の奥が少しだけざわつく。
チャペル。
白いドレス。
涙ぐむ新郎。
幸せって、形になると眩しい。
「遥花久しぶりー!」
テーブルは同級生ばかり。
転職、昇進、同棲、妊娠。
自然と話題は将来へ流れる。
「遥花は?」
来た。
笑顔で聞かれる。
悪意はない。
「うちはね、年下なんだよね。」
自然に出た言葉。
「だからまだかなぁ。」
笑って言う。
「へぇー、いいじゃん年下!」
「羨ましい!」
周りは盛り上がる。
私は笑う。
ちゃんと笑う。
でも。
“まだ”って言った瞬間、
自分で少し刺さった。
まだ。
まだ。
帰りの電車。
ヒールを脱ぎたい衝動と戦いながら
窓に映る自分を見つめる。
社会人5年目。
25歳。
私はもう、“まだ”側じゃない年齢なんだ。
別に焦ってない。
湊といるのは幸せだ。
でも。
時間は、ちゃんと進んでる。
スマホが震える。
“終わりました?”
湊。
“今帰りー。”
“迎えに行きます。”
頼れる年下の彼氏。
駅を出ると、少し離れたところにスーツ姿の湊。
「おつかれさまです。」
目が止まる。
「……綺麗です。」
その言い方が、真面目で、少し照れていて。
「ありがとう。」
並んで歩く。
夜風が少し冷たい。
「楽しかったですか。」
「うん。
幸せそうだった。」
「遥花さんは?」
「何が?」
「結婚。」
足が一瞬止まりそうになる。
「どうだろ。」
正直な答え。
「友達に言われた。“遥花は?”って。」
湊の横顔が、少しだけ硬くなる。
「“うちは年下だしまだかな”って。」
言いながら、自分で少し苦い。
湊は黙る。
歩幅が、ほんの少しだけ小さくなる。
「まだ、ですか。」
焦りじゃない。
考えている声。
「急いでるわけじゃないよ。」
慌てて言う。
でも、それは本音でもある。
「うん。」
湊は頷く。
視線は前。
まっすぐ。
何かを測るみたいに。
お風呂上がり。
ドレスを脱いで、いつもの部屋着。
ソファに並んで座る。
テレビはついてるけど、誰も見てない。
「遥花さん。」
「ん?」
「俺、急いだ方がいいですか。」
一瞬、空気が止まる。
「何を?」
「全部。」
その“全部”に、言葉が詰まる。
就職。
貯金。
覚悟。
未来。
全部。
私は湊を見る。
まだ若い顔。
でも、真剣な目。
焦っているわけじゃない。
ただ、ちゃんと考えている。
「急がなくていいよ。」
ゆっくり言う。
「でも、考えてくれてるのは嬉しい。」
湊は目を伏せる。
「“まだ”って言われるの、ちょっと悔しいです。」
その言葉に胸が温かくなる。
「じゃあ。」
少しだけ笑う。
「“もうすぐ”にする?」
湊が顔を上げる。
冗談半分。
でも、本気も少し。
「俺、貯金ちゃんとします。」
突然の言葉に思わず笑う。
「そこ?」
「そこからです。」
真面目。
本気。
愛しい。
その夜は、いつもより少し静かだった。
でも不安じゃない。
ただ。
時間が、ちゃんと見えた夜。
私たちは恋人で、
もう少し先も、ちゃんと見ている。




