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配属から一ヶ月。


まだ毎日が濃い。

でも、完全に潰れてはいない。


「これ、どう思いますか。」

前なら、ある程度形にしてから聞いていた。


“できる新人”でいたかったから。


今日は違う。

途中のまま、上司に持っていく。


「まだ途中ですけど、方向性合ってますか。」


少しだけ勇気がいる。

上司は資料を見る。


「ここはいい。ここはズレてる。」


短い返答。

でも早い。


やり直す時間がある。

湊は席に戻りながら思う。


完璧にしてから出すより、

早く恥かいた方がいい。


優等生をやめるって、こういうことか。





電話を取る。


一瞬詰まる。


前なら焦っていた。


「確認して折り返します。」


逃げじゃない。

必要な確認。


それだけで、少し呼吸が楽になる。





玄関を開ける前、ほんの少し迷う。


今日は、言えるか。


ドアを開ける。


「おかえり。」


いつもの声。


湊は靴を脱いで、そのままリビングに入る。

遥花はソファに座っている。


「今日は。」


自然に、口が開く。


「途中で聞きました。」


「うん。」


「完璧にしてから出さなくてもいいって

やっと理解しました。」


遥花は笑う。


「成長したね。」


からかってない。

本気で言ってる。


「あと、電話も。」


「うん?」


「わからんかったら、わからんって言いました。」


「えらい。」


その一言で、胸が温かくなる。


ソファに座る。

距離が近い。


少しだけ、身体を預ける。

無意識だった。


遥花は何も言わない。

ただ、少し肩を受け止める。


「……今日は。」


声が少し低くなる。


「めっちゃ焦りました。」


正直に言う。

逃げずに。


「うん。」


「でも、逃げませんでした。」


小さな報告。

遥花は、静かに頭を撫でる。


「ちゃんとやれてるよ。」


その言葉に、力が抜ける。


「家では、甘えてもいいですか。」


一瞬、沈黙。

遥花の目がやわらかくなる。


「いいよ。」


その答えが、予想以上に嬉しい。


完全に寄りかかる。

肩に額が触れる。


深く息を吐く。


「……今日、ちょっとだけ自分褒めていいですか。」


「いいよ。」


「じゃあ。」


小さく笑う。


「ようやった、俺。」


遥花も笑う。


「うん。ようやった。」


静かな夜。


削られる日々は続く。


でも。


優等生じゃなくてもいい。


できない自分も、途中の自分も、


ここでは許される。


目を閉じる。


明日も、行ける。




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