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夜。
洗い物を終えたタイミングでスマホが鳴る。
“母”
一瞬、嫌な予感。
「もしもし。」
『あんたさ。』
開口一番。
『いつ紹介してくれんのよ。』
遥花、固まる。
「……は?」
『引っ越したんでしょ?悠くんから聞いたわよ。』
「悠……」
『同棲してるんでしょ?』
「……してるけど。」
観念。
電話の向こうで小さく息を吐く音。
『別にあんたが決めたなら反対なんてしないわよ。』
『でもさ、母親としては気になるでしょ。』
『どんな子なの。』
「どんなって……普通。」
『普通ってなによ。』
「ちゃんとしてる。」
『顔は?』
「そこ?」
『大事よ。』
遥花、思わず笑う。
『まあいいわ。ちゃんと挨拶くらいしなさいよ。』
「はいはい。」
『“はいはい”じゃない。予定決めなさい。』
「わかったって。」
電話を切る。
深呼吸。
リビングでは湊がこちらを見ている。
「何かありました?」
遥花は少しだけ目を細める。
「うちの母がさ。」
「はい。」
「いつ紹介してくれんのよ、って。」
湊、固まる。
「……え。」
「知ってたよ、同棲。」
「……遥花さん、言ってないって。」
「言ってないよ。」
「……あ。」
湊が天井を見る。
「悠ですね。」
「悠だね。」
少しの間、二人で黙る。
湊が真顔に戻る。
「行きます、ご挨拶。」
即答。
遥花が吹き出す。
「そんな構えなくていいから。」
「構えます。」
「なんで。」
「彼氏なので。」
その言い方が、やけに真面目で。
遥花は笑いながら思う。
ああ。
ちゃんと進んでる。
家族の話が自然に出てきて、
逃げない人が隣にいる。
「そのうちね。」
「そのうちじゃない方がいいです。」
「なんで。」
「俺が落ち着かないです。」
また笑う。
悠のせいで、未来が一歩近づいた。




