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新居のキッチンはまだ少しよそよそしい。


食器棚の位置がしっくりこなくて

遥花は箸を出しながらふと止まった。


「あ。」


湊が振り向く。


「どうしました?」


「……親。」


「はい?」


「私たち、親にちゃんと挨拶してなくない?」


湊の動きが一瞬止まる。


「ああ。」


その反応に、遥花が眉を寄せる。


「ああ、ってなに。」


「年始に言いました。」


「……え?」


「一緒に住むかもしれない、って。」


遥花は完全に手を止める。


「いつの間に。」


「実家帰ったときです。」


少しだけ苦笑い。


「めちゃくちゃ心配されましたけど。」


「そりゃそうでしょ。」


「反対はされてません。」


さらっと言う。


でもその声の奥に、少しだけ緊張の残り香がある。


「ちゃんと説明しました。仕事のことも、距離のことも。」


遥花は、静かに息を吐く。


「……言ってくれてたんだ。」


「はい。」


湊は目を逸らさずに言う。


「落ち着いたら、顔出してもらえますか。」


強くも弱くもない声。

お願いでも、命令でもない。


ただ、当たり前みたいに。


遥花は一瞬だけ戸惑う。

“家族”という言葉の重みが、ゆっくり降りてくる。


でも、不思議と怖くはない。


「……うん。」


小さく頷く。

湊が少しだけ肩の力を抜く。


「ちゃんと紹介したいです。」


「なんて?」


「彼女です、って。」


遥花が吹き出す。


「まだ言ってないの?」


「言いましたよ。

遥花さんをちゃんと紹介したいんです。」


「なにそれ。」


笑いながら、少しだけ目が熱い。

ちゃんと、未来の中に入れてくれていた。

知らないところで、覚悟してくれていた。


「私のほうは……まだ。」


「いいです。」


「急がなくて。」


その言葉が、優しい。


「でも、そのうち言う。」


「はい。」


静かなキッチン。


まだ慣れない新居。


でも少しだけ、“家族”という未来が輪郭を持った。



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