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部屋の音が変わっている。
何もなくなったわけじゃないのに、
ダンボールが積まれただけで、空気が少し軽くなった。
軽いのに、胸の奥は重い。
遥花は窓際に立ったまま、何もない壁を見ていた。
前はここに小さな棚があった。
そこに置いていた写真立ては、もう箱の中。
「静かですね。」
湊の声が、少し遠く聞こえる。
「うん。」
声を出すと響いてしまいそうで、抑え気味になる。
ここに住み始めた日のことを思い出す。
社会人になって、
ちゃんと一人でやっていこうと決めた部屋。
泣いた夜もあった。
眠れない日もあった。
強くなろうとして、
強くなれなくて。
全部、この部屋は知っている。
湊が近づいてくる。
足音が、前より大きく響く。
「寂しいですか。」
遥花は、すぐには答えられない。
寂しいのか。
不安なのか。
怖いのか。
「……ちょっと、変。」
「変?」
「ここに、もう住まないっていうのが。」
笑おうとして、うまくいかない。
湊は何も言わずただ隣に立つ。
その距離が、やけに近い。
明日からは、この距離が“普通”になる。
普通、って何だろう。
「湊。」
「はい。」
「一緒に住むってさ、すごいことだよね。」
「はい。」
「戻れない感じ、しない?」
言ってから、自分でも驚く。
戻りたいわけじゃない。
でも、“戻れない”っていう事実が急に重くなる。
湊は少しだけ考える。
「します。」
正直な声。
「でも。」
一歩、近づく。
「戻らなくていいって思ってるから、言いました。」
遥花は息を吸う。
期待と不安が、同じ場所でぶつかる。
一緒にいられる。
でも、逃げ場もなくなる。
今までは帰れば一人だった。
一人だからこそ、保てた部分もあった。
それがなくなる。
「嫌になったらどうする?」
ぽつりと漏れる。
湊は一瞬だけ目を細める。
「嫌にならないようにします。」
「もし、なったら?」
湊は少し困った顔をして、それでも目を逸らさない。
「その時は、ちゃんと話します。」
完璧じゃない答え。
でも、誤魔化さない。
遥花は小さく笑う。
「怖くないの?」
「怖いです。」
即答。
「めちゃくちゃ。」
その正直さに、少し救われる。
怖いのは、自分だけじゃない。
期待も、同じくらいある。
「明日から、毎日一緒なんだよ?」
「はい。」
「毎日だよ?」
「はい。」
その“はい”が、少しだけ嬉しそうで、少しだけ緊張している。
遥花は部屋を見渡す。
この部屋は、守ってくれた場所。
明日からは、守られるだけじゃない。
誰かと守る側になる。
それが少し、誇らしい。
「ここ、好きだったな。」
「知ってます。」
「知ってるの?」
「何回も、ここで考え込んでる顔見ましたから。」
遥花は吹き出す。
「見てたの?」
「はい。」
不安も、寂しさも、全部消えたわけじゃない。
でも。
「……楽しみ、もある。」
湊の目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「俺もです。」
電気を消す。
暗くなった部屋が、少しだけよそよそしい。
「おやすみ。」
部屋に向けて。
過去の自分に向けて。
湊が隣で言う。
「明日、ただいまって言えるようにします。」
遥花は、ふっと笑う。
違和感も、不安も、期待も、全部抱えたまま。
それでも。
進む。
次から新生活編スタートです。
沢山の方に読んでいただいてるようで
困惑と喜びのハーフ&ハーフ。
まだまだ登場してない人物もいるので
お付き合いいただけると幸いです✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω')✌︎( ✌︎'ω')✌︎




