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湊はまた更に忙しくなった。
面接が続いているらしい。
結果はまちまち。
「次、進めました。」
「今回はダメでした。」
報告は、きちんとある。
律儀だなと思う。
でも。
電話は少し短くなった。
前みたいに、意味のない時間がない。
「今どこですか」も、
「帰りに寄ります」も、減った。
減った、というより。
減らしている。
多分。
私の時間を削らないように。
自分の不安を見せないように。
夜、
テレビの音がやけに遠い。
スマホを持って、置く。
メッセージ欄を開いて、閉じる。
“会いたい”
打って、消す。
言えば来てくれるかもしれない。
でも。
今じゃない。
あの夜、歩幅を変えるって言った。
待つって決めた。
湊が、自分でいく時間。
私の寂しさで揺らしたくない。
「……大人ぶってるな。」
自分に言う。
でも。
ちょっとだけ。
「寂しいよ…」
数週間後。
第一志望の内定が出た夜。
湊は、珍しく言葉を失っていた。
電話越しに、息が震えているのが分かる。
「受かりました。」
その一言に、いろんな夜が詰まっていた。
削られた顔。
強がった声。
短くなった電話。
全部。
「知ってた。」
またそのセリフ。
根拠なんてない。
でも。
そう言いたかった。
後日。
久しぶりに、ゆっくり会える夜。
湊はどこか軽い。
肩の力が抜けている。
隣に座る距離も、少し近い。
「俺、ちゃんと並べますかね。」
冗談みたいに言うけど
真剣な目。
遥花は、少し考える。
並ぶって何だろう。
同じ年齢?
同じ立場?
同じ余裕?
違う。
「私ね。」
湊がこちらを見る。
「ちょっとだけ、寂しかったよ。」
空気が止まる。
責めるつもりはない。
でも本当。
「電話短くなって、会う回数も減って。」
「頑張ってるの分かってたから言わなかったけど。」
湊の視線が揺れる。
一瞬、胸の奥が締まるみたいな顔。
「……言ってくれればよかったのに。」
声が低い。
責めるというより、自分を責めている。
遥花は肩をすくめる。
「大人だからね」
冗談みたいに言う。
でも。
「湊が必死なの分かってたから。」
それが本音。
「私の寂しさ、今は違うかなって思った。」
湊は目を伏せる。
手の甲に視線が落ちる。
きっと、気づいていなかった。
守ろうとしていた。
並ぼうとしていた。
でも。
支えられていた。
「……やっぱり、大人ですね。」
遥花は首を振る。
「違うよ。」
少しだけ近づく。
「湊が頑張ってたから、我慢できただけ。」
指先が触れる。
湊の手が、少し遅れて重なる。
強くない。
でも、離さない。
「次は言うよ、寂しいって。」
正面から言う。
逃げない。
「……次は、俺が気づきます。」
ゆっくり。
ちゃんと目を見て。
その顔を見て、思う。
ああ。
追いつこうとしてる。
必死に。
同じ高さに立とうとしてる。
並ぶって、多分こういうこと。
完璧になることじゃない。
言えなかったことを、
後からでも言えること。
それを受け止められること。
湊の指が少しだけ強くなる。
まだ未熟。
でも。
ちゃんと、成長している。
歩幅は、少しずつ。
揃ってきている。




