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39


面接から三日。

朝から、空気が重い。


一日目は勢いがあった。


“後悔はないです。”

あの言葉が、まだ体に残っていた。


二日目は少し揺れた。


でも、遥花に「後悔ないんでしょ?」と言われて、

うなずけた。


三日目。

言葉が効かなくなる。


講義室。

教授の声が遠い。


ノートは開いている。

でも、文字は書いていない。


スマホを伏せて机に置く。


裏側からでも分かる。

画面が、気になる。


通知音が鳴るたびに、心臓が跳ねる。


違う。


違う。


違う。


LINE。

ニュース。

悠からのスタンプ。


「そわそわすんな。」


隣で悠が小声で言う。


「してない。」


「今日やろ。」


分かってる。


言われなくても。


午後。


大学近くのカフェでレポートを開く。

文字が目に入っても、意味が入らない。


減らない冷めたコーヒー。


三回目。


四回目。


スマホを触る。


通知はない。


“手応えは分からないですけど、後悔はないです。”


自分で送ったメッセージを思い出す。


強がりじゃない。


本当に後悔はない。


でも。


それと、受かるかどうかは別。


もし落ちたら。


また一から。


また、削られる。


遥花に言った。


“怖くても出せました。”


本当は。


今、怖い。


震え。


画面が光る。


一瞬、時間が止まる。


○○株式会社


喉が乾く。


指が固まる。


来た。


周囲の音が消える。


メールを開く。


『先日は面接にご参加いただき、ありがとうございました。』


定型文。


嫌な予感。


胸が冷える。


この書き出し。

だいたい、その後に来る。


“誠に残念ながら――”


スクロールしようとする。


指が、止まる。


その時。


遥花からの着信。


「…もしもし。」


声が少し低い。


「来た?」


柔らかい声。


「……来ました。」


「開いた?」


「途中です。」


正直に言う。


沈黙。


責めない。


急かさない。


「最後まで読んで。」


それだけ。


逃げ道はくれない。


でも、一人にもさせない。


画面を見る。


スクロール。


『慎重に選考を重ねた結果――』


心臓が強く打つ。


一拍。


二拍。


時間が伸びる。


呼吸が浅い。


『ぜひ次の選考へお進みいただきたく――』


理解が遅れる。


次。


次?


落ちてない。


終わってない。


一気に息が抜ける。


椅子に背中を預ける。


視界が少し滲む。


「……落ちてないです。」


声がかすれる。


電話の向こうで、小さく息が緩む。


「知ってた。」


「なんで、ですか。」


「なんとなく。」


遥花が笑う。

根拠のないセリフ。


でも。


その“なんとなく”に救われる。


「怖かったです。」


「でも、逃げなかった。」


静かに。


はっきり。


電話の向こう。


小さく、笑う気配。


「うん。」


それだけ。


でも。


十分。


カフェのざわめきが戻る。


世界が戻る。


まだ内定じゃない。


まだ途中。


でも。


あの日、優等生をやめたことは、無駄じゃなかった。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


自分を信じられる。


スマホを握る。


「次、また削られますかね。」


半分冗談。


半分本音。


「削られても湊なら大丈夫。」


即答。


「私がいるでしょ?」


胸の奥が、静かにあたたまる。


まだ途中。


でも。


一人じゃない。


それだけで、強くなれた気がした。




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