38
面接会場のロビーは、静かに張りつめていた。
スーツ姿が並ぶ。
同じ色。
同じ姿勢。
同じ緊張。
俺もその一人。
手のひらが少し湿っている。
頭の中で、用意してきた志望動機を繰り返す。
“安定した社会インフラを通じて――”
違う。
それは“正解”。
俺の言葉じゃない。
昨日の夜を思い出す。
「守れるかどうかで選ばなくていい。」
「歩幅、合わせるんでしょ?」
深呼吸。
でも、いざ呼ばれると。
「どうぞ。」
椅子に座った瞬間、体が勝手に“優等生”を始める。
質問。
受け答え。
無難。
正確。
きれい。
面接官がうなずく。
悪くない。
でも。
どこかで、自分が遠い。
“御社の理念に共感し――”
またそれや。
頭の中で小さく舌打ちする。
違う。
俺は何でここ受けてる?
守れる会社だから?
安定してるから?
それもある。
でも、それだけじゃない。
最後の質問。
「最後に、何か伝えておきたいことはありますか?」
一瞬、沈黙。
いつもなら
“御社で成長し――”
でも。
言葉が出てこない。
代わりに、別の言葉が浮かぶ。
少しだけ、力を抜く。
「正直に、言ってもいいですか。」
面接官が少し笑う。
「どうぞ。」
喉が鳴る。
怖い。
でも。
「僕は安定しているから御社を志望しました。」
空気が少し変わる。
でも止まらない。
「でも、それだけじゃ足りないと思いました。」
心臓がうるさい。
「生活を支える仕事って、数字じゃなくて、人の時間を支えることだと思います。」
言いながら、自分でも驚く。
用意していない言葉。
でも。
本音。
「僕はまだ社会に出ていませんし、不安もあります。」
面接官の目がまっすぐ向く。
「でも、不安があるままでも前に進める人間でいたいと思っています。」
一瞬の静寂。
逃げない。
目を逸らさない。
「完璧じゃないです。」
「でも、責任を持つ覚悟はあります。」
言い切る。
静か。
面接官がうなずく。
「ありがとうございました。」
ドアの外に出た瞬間、息が抜ける。
ロビーの椅子に座る。
手が震えている。
うまくいったか分からない。
刺さったかも分からない。
でも。
後悔はない。
優等生の正解じゃなくて、
自分の言葉を出した。
それだけで、少し軽い。
スマホを取り出しメッセージを打つ。
『終わりました。』
少し考えて、続ける。
『手応えは分からないですけど。』
指が止まる。
それから
『後悔はないです。』
送信。
画面を見つめる。
心臓はまだ早い。
でも。
逃げなかった。
自分で、いった。




