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簡単じゃないとは思っていた。
就活なんて、競争で、
落ちるのが前提みたいなものだと。
でも。
最終面接の結果通知が届いた瞬間、
喉の奥が、じわっと熱くなった。
“誠に残念ながら――”
その一文で、全部分かる。
スマホの画面がやけに白い。
閉じで、もう一度開く。
何か読み間違えてないか確かめるみたいに。
でも、変わらない。
落ちた。
これで三社目だ。
椅子に深く座り込む。
息苦しいネクタイをほどく。
呼吸が浅い。
最終まで行けたんやから、上出来やろ。
そう言い聞かせる。
でも頭の奥で別の声がする。
“選ばれなかった”。
その事実が、静かに刺さる。
帰り道、駅のガラスに映る自分を見る。
スーツ姿。
それっぽい。
それっぽいだけ。
“学生らしいですね。”
あの面接官の言葉が蘇る。
悪意はなかった。
むしろ柔らかかった。
でも。
らしい、って何だ。
まだ社会に出る顔じゃないってことか。
まだ途中ってことか。
遥花さんの顔が浮かぶ。
フロントに立つ姿。
クレームを受け止める横顔。
後輩に穏やかに説明している声。
あの人は、もう“現場”にいる。
俺は、まだ“審査中”。
並ぶとか言った自分が、急に軽く思える。
スマホが震える。
『今日どうだった?』
短いけど、優しい文字。
指が止まる。
正直に打てばいい。
落ちた、って。
でも。
打てない。
弱いと思われたくない。
頼りないと思われたくない。
守るって言ったのは俺なのに。
『普通です。』
既読がついてすぐ返信が来る。
『そっか。おつかれさま。』
その一言が、逆に刺さる。
何も知らない。
知られたくない。
部屋に戻る。
スーツを脱ぐ。
椅子に掛ける気力もなく、ベッドに落とす。
天井を見上げる。
静かすぎる。
さっきまで面接会場のざわめきの中にいたのに。
急に、自分だけ取り残されたみたいになる。
ゼミのグループLINEが鳴る。
「内定もらいました!」
スタンプが流れる。
おめでとう、の嵐。
画面を見つめる。
胸の奥がざわつく。
羨ましい。
悔しい。
焦る。
何で俺じゃない。
『おめでとう。』
送信。
スマホを伏せる。
深く息を吐く。
思ったより、うまくいかない。
分かってた。
でも。
こんなに削られるとは思ってなかった。
自信。
言葉。
“離れません”って言った自分。
全部が少しずつ、薄くなる。
電話、かけようか迷う。
声を聞いたら、たぶんバレる。
揺れてるの。
嫌だ。
心配させたくない。
でも。
一人は、きつい。
スマホを握る。
親指が発信ボタンの上で止まる。
やめる。
スマホを放り、ベッドに仰向けになる。
暗い天井。
胸の奥がざわざわする。
簡単じゃないとは思ってた。
でも。
「しんど…」




