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インターホンを押す指が、少しだけ震える。


一週間。たった一週間。


でも、長かった。


就活の面接で緊張するより、

こっちのほうが心臓に悪い。


ドアが開く。


「いらっしゃい。」


柔らかい声。


その瞬間、全部どうでもよくなる。


でも。


視界の端に、違和感。


悠。


目が合う。


「おう。」


普通すぎる顔。


湊の肩が、ほんの少しだけ落ちる。


「……なんでおるん。」


「俺の家やぞここ。」


違う。

でも違わない。


遥花さんが、少し気まずそうに視線を泳がせる。


「今日、たまたま。」


たまたま。


そう。


たまたま。


分かってる。


でも。


一週間分の気持ちが、行き場を失う。


湊は無意識に遥花を見る。

目が合う。

ごめん、みたいな目。


別に悪くない。

でも、がっかりする。

悠がそれを見て、にやっとする。


「何その顔。」


「別に。」


「別に、ちゃうやろ。」


遥花が小さく笑う。

空気が柔らかくなる。


でも。


触れられない距離が、もどかしい。





三人で他愛もない話。


就活の話。

ホテルの話。

悠はやけに饒舌。


湊が遥花を見れば、悠がそれを見る。

悠がポテチを取るたび、二人の間に座る位置を微妙にキープする。


完全に邪魔。絶対わざとだ。

近いのに、遠い





「そろそろ帰るわ。」


玄関に向かいながら、振り返る。


「顔、隠せてないぞ。」


「……うるさい。」


「ごゆっくり。」


ドアが閉まるり、急に音が消える。


心臓の音だけが残る。


遥花さんと目が合う。


数秒。


どっちから動くか、みたいな空気。


「……やっと。」


本音が漏れる。

遥花さんが小さく笑う。


今度は、誰も邪魔しない。


手を伸ばし、腰を引き寄せる。

少しだけ強く。


「会いたかったです。」


低くなる声。


遥花さんの指が、俺のシャツを掴む。


「私も。」


その一言で、胸が熱くなる。


久しぶりのキス。

一週間分の距離が溶ける。


深い。


でも荒くない。


確かめるみたいに、丁寧に。


「悠、絶対わざと。」


唇が離れた瞬間、笑う。


「あれは楽しんでました。」


「性格悪い。」


でもその笑いの裏で、

さっきのがっかりがまだ少し残ってる。


「忙しかったです。」


ぽつり。


「知ってる。」


言葉が少し詰まる。


「会えないと、ちょっと不安になります。」


正直に言うと

遥花さんの目が少し揺れる。


「私も。」


その瞬間、抱きしめる。

今度は強く。

逃がさないみたいに。


「待たせる気ないって言いましたよね。」


「言った。」


「証明します。」


ソファに倒れ込み、遥花さんが下になる。


「嫌だったら言ってください。」


「嫌じゃない。」


指が、首元から背中へ。


ゆっくり。


焦らない。


急がない。


でも、止めない。


今までより深いキス

遥花さんの指が、俺の首の後ろに触れる。


その仕草で、理性が揺れる。


でも。


一度、止まる。


額を合わせる。


「……俺、いろいろ余裕ないです。」


「うん。」


遥花さんが小さく笑う。


「でも。」


「ちゃんと続いてるよ。」


その言葉が、何より嬉しい。


忙しい。


将来もまだ分からない。


でも今は、ここにいる。


触れられる距離。


抱きしめられる距離。


「続けます。」


静かに言う。


軽くない。


約束でもない。


宣言。


遥花さんが笑う。


その笑顔を見ると、

面接の不安も、将来の焦りも、

少しだけ小さくなる。


静かな夜が、ゆっくり深まる。


焦らない。


でも、止まらない。


会えなかった時間が、ちゃんと意味になる。


やっと、二人。




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