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三人でいる時間は、いつも通りだった。
座る位置も変わらない。
悠と湊はリビングでレポート。
私はダイニング。
ただ一つ違うのは、空気だ。
湊の視線が、前より迷いなくこちらを見ている。
言葉は増えていない。
でも、温度は上がっている。
悠はそれを、気づいていないはずがない。
レポートの話をしながらも、視線は冷静だ。
観察している。
はかっている。
「俺、コンビニ行ってくる。」
「え、今?」
唐突さに、思わず聞く。
「コーヒー切れてる。」
嘘ではない。
でも、急ぐ理由もない。
悠は立ち上がり、湊を一瞬だけ見る。
ほんの一瞬。
それだけで意味がある。
ドアが閉まり、沈黙が広がる。
湊はすぐに話さない。
レポートに目を落としたまま、ペンを動かしている。
その落ち着きが、逆に緊張を作る。
私は先に口を開く。
「悠、すぐ戻るよ。」
言い訳みたいだ。
湊は小さくうなずく。
「分かってます。」
穏やかだ。
逃げる気も、急ぐ気もない。
ただ、そこにいる。
私はキッチンに立つ。
背中に視線を感じ振り向くと、目が合う。
逸らせない、あの日と同じ目。
でも今日は、なんだか違う。
「……どうしたの?」
湊は少し考える。
それから静かに言う。
「遥花さんがどう思ってるか、知りたくて。」
真っ直ぐ。
告白ではない。
でも逃げ道もない。
私は息を詰める。
「何を?」
時間を稼ぐ。
「俺のこと。」
押しつけない。
ただ、確認。
私は視線を逸らす。
「弟みたいな幼馴染の友達だよ。」
自分でも分かっている。
それは理由じゃない。
湊はゆっくり息を吐く。
「年下やから、軽い思われてます?」
責めない。
でも、核心。
私は黙る。
図星だから。
「俺、軽い気持ちちゃいます。」
あのときと同じ声。
でも今日は、距離が近い。
「奪うつもりもない。」
「でも、外にいる気もない。」
胸が強く鳴る。
横に立つ。
私は湊を見る。
若い。
確かに若い。
でも、逃げない。
悠のいないこの部屋で、
一人で立っている。
「対等でいられる?」
湊は少しだけ考える。
「対等でいたいです。」
言い切らない。
でも嘘もつかない。
「努力します。」
誠実さが、痛い。
ドアの外で足音がする。
私は無意識に息を整える。
湊は目を逸らさない。
最後に、小さく言う。
「俺は決めたんで。」
静かな低い声。
でも重い。
ドアが開き、悠が帰ってくる。
視線が一瞬だけ交差する。
何も聞かない。
でも、分かっている。
境界線はまだある。
でも、三人とも
その上に立っている。




