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金曜の夜は、身体が正直だ。

今週は長かった。


クレームの対応で何度も頭を下げ、

後輩のフォローで自分の休憩は削られた。


笑顔を作る筋肉が、少しだけ痛い。


駅のホームで、電車を待つ。


ヒールを脱ぎたい。

肩が重い。


湊からは昼にメッセージが来ていた。


『二次面接通りました。』


短い。絵文字もない。


すぐに返信した。


『おめでとう。』


それだけ。

それ以上は書かなかった。

書けなかった。


“頑張ってるね”は軽い気がして、

“会いたい”は重い気がして。


電車が来る。

窓に映る自分の顔が、少しだけ弱い。


2週間、会っていない。


連絡はある。

途切れていない。

だから、不満はない。


ないはずなのに。


最寄駅で降りる。

改札を抜ける。


無意識に、あの柱を見る。


いない。

分かっている。


今日は金曜。

きっと資料まとめか、面接対策か、バイトか。


期待なんてしていない。


していない、のに。


胸の奥が、少しだけ空く。


マンションが見える。

ほっとする。

同時に、静かな部屋を想像してしまう。


鍵を回す。


ドアを閉める。


部屋の空気は冷たい。


バッグを置いて、ヒールを脱ぐ。


ソファに沈む。


天井を見る。


スマホを手に取る。


開く。


閉じる。


また開く。


トーク画面。


最後のやり取りは、昼の“おめでとう”。


打ち込む。


“今日もお疲れさま。”


消す。


もう言った。


“今何してる?”


消す。


忙しいって知ってる。


指が止まる。


頭が疲れている。


理性が、少しだけ緩む。


ぽつりと。


打ってしまう。


“会いたい。”


指が止まる。


送信ボタンが、やけに遠い。


でも。


今週、何度も思った。


改札で。


キッチンで。


テレビの前で。


一人のソファで。


会いたい。


ただ、それだけ。


送信。


画面に「既読」がつくまでの数秒が長い。


やってしまった。


忙しいのに。


応援する側なのに。


重い。


取り消したい。


取り消せない。


胸がうるさい。


二十秒。


三十秒。


震える。


着信。


湊。


通話。


心臓が喉まで上がる。


出る。


「もしもし。」


少し息が荒い。


『今どこですか。』


「……家。」


『すぐ行きます。』


「え?」


通話が切れる。


数秒、動けない。


何で。


来るの。


忙しいって言ってたのに。


玄関の方を見る。


静か。


心臓の音だけがうるさい。


チャイム。


ほとんど間がない。


ドアを開ける。


目の前に、湊。


髪が少し乱れている。


息が荒い。


頬が赤い。


走ってきたのが分かる。


「……何してるの。」


声がかすれる。


湊は一歩入る。


ドアが閉まる。


鍵の音。


その瞬間。


腕が回る。


迷いなく。


強く。


でも、壊さないように。


ぎゅっと。


息が詰まる。


近い。


胸の鼓動が伝わる。


「……嬉しかったです。」


耳元。


低い声。


少し震えている。


「なにが…?」


分かっているのに、聞く。


「会いたいって。」


否定できない。


言い訳もできない。


湊の腕が、少しだけ強くなる。


「忙しいんじゃなかったの。」


やっと出た言葉。


「忙しいです。」


「でも。」


呼吸を整えながら続ける。


「俺も、会いたかった。」


その一言で。


2週間分の我慢が、ほどける。


自分だけじゃなかった。


一人で削られていたわけじゃなかった。


目の奥が熱くなる。


「重いと思われるかと思って、言わなかった。」


湊が、静かに言う。


「でも、言ってくれたから。」


「走ってきました。」


知ってる。


呼吸が物語ってる。


汗ばんだ手が、少し震えている。


ドアの内側。


二人だけの空間。


腕の中で、やっと気づく。


ああ。


好きなんだ。


否定できないくらい。


静かに、はっきりと。




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