23
鍋の日から、一週間が過ぎた。
朝の「おはようございます。」
昼の「説明会終わりました。」
夜の「今から帰ります。」
途切れず連絡はある。
だから不安になる理由はない。
ないはずなのに。
――火曜日。
改札の外に出た瞬間、視線が自然に動く。
柱のあたり。
コンビニの前。
信号の手前。
いない。
自分で小さく笑う。
「約束してないでしょ。」
心の中で呟く。
でも、足取りはほんの少し重い。
鍵を回す音が、やけに響く。
部屋はいつも通り。何も変わらない。
変わらないのに、
何かが足りない気がする。
冷蔵庫に白菜が余っている。
包丁を持つ手が止まりあの日の湯気を思い出す。
「雑。」
「文句あるなら切って。」
小さく笑う。
声がない。
静かすぎる。
――水曜日。
昼休み、スマホが震える。
『ES通りました。』
よかった。
胸がほっとする。
『おめでとう。』
指が止まる。
“頑張ってるね。”
“偉いね。”
“会いたい。”
どれも違う気がして、打てない。
画面を閉じる。
応援する立場。
それでいい。
――木曜日。
夜、テレビをつけたままソファに座る。
画面の中で笑い声が響く。
自分は笑っていない。
スマホを見る。
既読はついている。
返信はまだ。
きっと面接対策だろう。
頭では分かる。
それでも、
胸の奥に小さな棘みたいなものが刺さる。
“今”じゃない。
“今”が共有されていない。
それだけで、落ち着かない。
――金曜日。
雨の中、傘をさして歩く。
水たまりを避ける。
ふと、横に誰かいないかと視線が動く。
いない。
当たり前だ。
でも、
並んで歩く距離を想像してしまう。
スマホを開く。
『今終わりました。』
少し遅れて届く、たった一文。
たったそれだけなのに、
肩の力が抜ける。
画面を見つめたまま、ふと思う。
もし、来年。
遠くなったら。
今みたいに、ふらっと来れなくなったら。
この一文を待つ夜が、当たり前になる。
それは、
少しだけ、寂しい。
違う。
寂しい、じゃない。
落ち着かない。
胸の奥が、静かにざわつく。
スマホを握りしめたまま、呟く。
「……会いたい。」
小さな声。
誰も聞いていない。
自分だけが、聞いている。
はっとして、顔を上げる。
忙しいんだから。
応援してるんだから。
そんなこと、言う立場じゃない。
でも。
“会いたい”は、
思ったより、自然だった。
ただ、
この部屋に、あの声がないと、
少しだけ、広すぎる。




