21
「例の件ですが。」
マネージャーに呼ばれたのは午後だった。
「本人へ正式に警告しました。
今後の来館はお断りします。」
淡々とした報告。
「再度接触があれば、警察へ相談します。」
そこまで聞いて、ようやく息が通る。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
反射で口から出た言葉。
マネージャーは静かに首を振る。
「これも職務の一環ですし、あなたが謝ることでもありません。」
その言葉が、胸の奥に落ちる。
謝らなくていい。
頼っていい。
それは弱さじゃない。仕事だ。
守られることは、特別扱いじゃない。
「ありがとうございます。」
今度は素直に言えた。
「今日も帰りは彼が来ますか。」
一瞬、目を瞬く。
「……はい。」
昨日、ちゃんと話した。
“こういう日は連絡して。”
マネージャーは小さく頷く。
「安心して帰れますね。」
ほんの少しだけ、人の温度が混じる。
それ以上は何も言わない。
評価もしない。
干渉もしない。
ただ、部下の安全が確保されることを確認するだけ。
外に出る。
夕方の空気が少し冷たい。
迎えに来てくれた湊が
スマホをしまってまっすぐ歩いてくる。
「お疲れさまです。」
いつも通りの声。
「どうでした?」
「警告したって。」
「そうですか。」
「完全に終わったわけじゃないけど。」
湊は頷く。
「何かあったら、すぐ言ってください。」
守る、とは言わない。
それがちょうどいい。
「来てくれてありがとう。」
言葉が自然に出る。
湊が少し目を丸くする。
「今日、寒いですね。」
少し考えてから言う。
「……鍋でもする?」
「いいんですか。」
「寒いし。」
言いながら、少し笑う。
本当は、寒いからだけじゃない。
さっきまでの空気を、温度で塗り替えたい。
「何鍋ですか。」
「あるもので。」
「雑。」
「文句あるなら作って。」
少しだけ笑い合う。
鍵を開け、部屋の灯りをつける。
キッチンに並ぶ。
その距離が自然すぎて。
ふと、思う。
こういう時間が増えていくのは、
悪くない。
まだ言葉にはできないけれど。




