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退勤後、外に出ると見覚えのある背中が目に入った。
慌ててスマホを確認しても新着メッセージはない。
なんでいるの。
びっくりして、次の瞬間ちょっと笑いそうになる。
何してるの、ほんと。
マネージャーが視線を向ける。
「お知り合いですか?」
私は「あの」と言いかける。
どう説明する?
大学の子?友達?
言葉を探している間に、湊が歩いてくる。
目が合う。
ちょっとだけ緊張してる。
「弟さん?」
その問いに私はまた迷う。
その一瞬。
「彼氏、になります。」
未来形。
思わず湊を見る。
マネージャーが一拍置く。
(ああ、そういう段階か)
という理解の目。
でも、すぐに視線を私に戻す。
「……大丈夫ですか?」
声が少しだけ低くなる。
恋愛の確認じゃない。
安全の確認。
私は頷く。
「はい、大丈夫です。」
本当だ。
今日は、怖くない。
マネージャーは小さくうなずく。
「何かあればすぐ連絡してください。」
それだけ言って、去っていく。
背中が見えなくなってから、私は湊を見る。
「なりますって何。」
笑いをこらえながら。
湊は少し目を逸らす。
「今はまだ途中なんで、目指してます。」
つい、笑ってしまう。
緊張が抜ける。
「未来形使わないで。」
「かっこええかなって。」
「全然。」
軽く肩を叩く。
怒ってない。
むしろ、少しだけ安心している。
「なんで来たの。」
「心配やったんで。」
「連絡くらいして。」
「次からします。」
真剣に言うからまた笑う。
さっきまで張っていた気が、ふっとほどける。
彼氏、になります。
まだ決まってない。
私は何も言ってない。
でも
嫌じゃない。
むしろ。
それに気づくほど、まだ自分は正直じゃないけど。
「……送って。」
先に歩き出す。
湊が隣に並ぶ。
「はい。」
街灯の下を歩きながら、
未来形が頭の中で転がる。




