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病室の窓から、冬の光が差し込む。
腕の中で、小さな体がすうすう眠っている。
こんなに軽いのに、
抱いていると、ずしんと重い。
責任とか、愛情とか、
いろんなものが一緒に乗っているみたい。
ノックの音の後、扉が開く。
両家の両親が、そわそわしながら入ってくる。
「まあ……」
母の声が、やわらかく溶ける。
「小さいわねぇ」
湊のお母さんが、目を細める。
お父さんたちは、少し距離を保ちながらも
明らかに落ち着きがない。
「抱っこ、してもいいのか?」
父が聞く。
「もちろん」
湊が答える。
少しだけ誇らしそうな顔。
順番に、そっと抱き上げられる。
「軽いなぁ……」
「でも、ちゃんと重いな」
ひと通り落ち着いたところで、母が私を見る。
「名前は決めたの?」
その一言で、胸が少し高鳴る。
湊を見ると、うなずく。
「うん」
私は、眠る顔を見つめながら言う。
「さんずいに、零と……」
少し息を吸う。
「遥花の花で、“澪花”」
静かになる。
誰も、すぐに言葉を出さない。
湊のお母さんが、ゆっくり微笑む。
「……素敵な名前ね」
その声が、胸に染みる。
母が言う。
「零って、始まりの数字でもあるのよね」
「うん」
湊が、横で静かに補足する。
「水の道って書く“澪”は
流れを導く意味もあるらしいです」
その横顔が、少し照れている。
「湊の水と、遥花さんの花か」
湊のお父さんがぽつりと呟く。
「12月20日、か」
父の言葉に、私は小さく笑う。
「うん」
あの日が、二人の始まり。
そして、
この子が生まれたことで、
その始まりが、続きになった。
「澪花」
小さな声で呼んでみる。
まぶたが、ぴくりと動く。
世界が、確かに広がった。
二人の記念日が、
三人の始まりになる。




